NTT東西発注の元請工事を受注し請け負う事業者を想定した問題地図です。様々な理由により、「新卒にせよ中途にせよ、外から人が寄り付かない→高齢化・同質化が進む→様々な問題は改善されない→人が寄り付かない構造が固定化する→新卒にせよ中途にせよ、外から人が寄り付かない→以下ループ」という事態が発生しています。どう変えていきましょうか。
公共工事の問題地図
着想 - 地方都市の問題地図
本記事の着想元となった、沢渡あまね氏発表の「地方都市の問題地図」です。
実物 - 公共工事の問題地図
上図は、以下のツイートの内容をさらに再検討・要素追加等行ったものです。
「地方都市の問題地図」のパーツに追加して、「公共工事の問題地図」描いてみました #地方都市の問題地図 #バリューサイクルマネジメント https://t.co/orpAqI0KFC pic.twitter.com/VvKIFWZD6Q
— 向本郷:\NTT用語系業界 (@S_Timer_Tech) 2021年11月25日
なぜこんなものを描いたか
大都市圏以外の都市圏、および非都市的地域においては、「公共工事を主たる収益源とする建設業が地域の主要産業となっている」というケースが多々あります。ここでの「主要産業」というのは、「地域の経済活動」「地域の雇用の担い手」という意味にかかるものです。
公共工事が経済活動の主役となっている地方都市が少なからず存在する以上、「地方都市の問題地図」を描くにあたり、公共工事に関する問題を無視することはできません。ゆえに、元々の「地方都市の問題地図」のパーツにつなげる形で「公共工事の問題地図」を描いた、という次第です。
意味についてさらに解説
指名競争入札の帰結
日本の公共事業における入札ランク制度は、「低ランクの事業者が入札に参加することを禁止する制度」であるのみならず、「高ランクの事業者が入札に参加することを禁止する制度」でもあります。大手事業者がその規模に比べて小規模の工事の入札に参加することはできません。また、指名競争入札を採用する大きな理由として、「地元事業者以外の排除」という要素があることは否定できません。ゆえに、「指名競争入札」は「地元同規模事業者のみでの競争」という帰結に至るわけです。
また、指名競争入札において同一地域・同一規模の工事の入札に参加するメンバーは大体同じとなるので、その分談合もやりやすくなるわけです。
行政の無謬性神話に関して
行政の無謬性神話から気合・根性主義に至るまで
公共工事において行政の無謬性神話が表向き成り立っているように見せるためには、「契約を不確実なものとし、受注者にしわ寄せを押し付ける」という手法が取られます。契約にはない事柄が押し付けられるので、受注側は気合・根性で解決しなければならなくなります。
渡邊法美氏の講演資料わが国の公共工事入札・契約制度改革に関する一考察を解釈すると、具体的には、以下のような要素がしわ寄せの対象となります。
- 膨大な工事量を年度内に完工させる→未確定な顧客要求
- 会計検査に対して無難に対応する→過確定な現場生産性向上手段
- 不確定な設計図書変更対応
- 不確定な施工の監理形態および監理形態
また、「過確定な現場生産性向上手段」の帰結として、「非常に少ない創意工夫の余地」という問題が発生します。
行政の無謬性神話から契約軽視/契約不完備に至るまで
渡邊法美氏の講演資料わが国の公共工事入札・契約制度改革に関する一考察の文中には、以下のような記述があります。
薄井は、「日本において行政に対する期待、逆に言えば、行政が自己に課している行政責任には、よく引き合いに出されるアメリカとは異なるものがある。それは、およそ工事が投げ出されるとか極端な疎漏工事などは絶対にあってはならないという考え方である。事後的な損害賠償の議論などは、行政責任を重視する立場からすれば、ほとんど意味のないことなのである。工事の完成についての完璧主義と言ってよい。」と述べ、…
このような考え方のもとでは、「紛争解決手段の定義や受注側の請求権について、十分に網羅性のある契約」「契約のデザインによる仕事の進め方の形成」といったあり方は実現しようがありません。ゆえに、「契約軽視/契約不完備」という帰結に至るわけです。
NTT加入者線路設備工事の実施設計は、こんなことを考えて行われている
加入者線路の実施設計とは
下記記事に詳細を記述しています。
本記事の前提条件
本記事で対象とする実施設計は、NTT東西のサービス総合工事における実施設計を想定しています。例えば以下のような工事が含まれます。
一方で、以下のような通信設備工事の実施設計は、本記事の記述対象とはしません。
- NTT東西以外の通信事業者の通信設備工事
- 移動体通信の通信設備工事も、本記事の記述対象ではない
- 面的広がりを持った地域に対するNTT加入者線路設備の新規導入工事
- このような工事については、NTT東西の場合、「一般計画工事」「簡易総合工事」といったスキームで発注がなされる
- 大規模集合住宅・大規模オフィスビル・大規模商業施設等への引込設備の新設
- このような工事については、NTT東西の場合、「一般計画工事」「簡易総合工事」といったスキームで発注がなされる
- 自治体発注による加入者線路設備の新設
- 「IRU工事」と言われる種類の工事である
加入者線路の実施設計で求められる要素
加入者線路の実施設計には、「複数工事への対応」「経済性を意識した設計」「安全性を意識した設計」といったテーマを総合的に反映することが求められます。
複数工事への対応
サービス総合工事には、上述「本記事の前提条件」で触れたように、多種多様な工事が含まれます。発注者たるNTT東西は、通建会社による実施設計に対し、複数工事を同時に施工することによる付加価値の提案を求めています。
経済性を意識した設計
NTT東西は、昨今「メタリック加入者線路設備の縮減」を設備構築の主要な方針としています。このような大まかな方針に基づき、NTT加入者線路設備の実施設計に対しては、以下の細かな方針が示されています。
- 今後使用される見込みのない設備は撤去する
- 新築建造物等でメタリック加入者線路設備の新設が必要な場合、その規模は最小限とする
NTT東西も経済活動を行う実態である以上、最小限の投資で最大限の成果を出すことが求められます。「加入者線路設備工事の実施設計」という範囲でいえば、例えば「支障移転工事で電柱の建て替えが必要となる場合、建て替え後の電柱の本数が最小となるようにする」といった具合です。
安全性を意識した設計
「人身事故リスクを最小限にする」という命題は、設計段階から考慮しなければなりません。例えば以下のような要素が含まれます。
- 高所作業は、可能な限り高所作業車を使う
- 交通量の多い道路、歩行者の多い歩道等の存在を考慮する
周辺で設備更改等が発生する場合、危険のある老朽設備等の更改も同時に行うことが求められます。「周辺設備の更改」そのものは工事注文書には含まれませんが、「通建会社裁量の提案」として評価されます。
法律上求められる安全要件は、当然満足されなければなりません。NTT加入者線路設備工事においては、「架空通信設備の地上高要件を満足するような電柱更改」が主なテーマとなることが多いです。
実例「アクセスデザインコンテスト2021」における設計課題
※この部分の記述については、前提となる「アクセスデザインコンテスト2021における設計課題」が、情報通信エンジニアリング協会Webサイト上で非公開となったため削除しました。
-
道路工事等の理由による設備移転工事です。↩
フレームワークやベストプラクティスと、旧来日本製造業型組織は相容れないものである
参考文献
本記事の内容は、以下の記事を参考文献としています。
- リスクによる安全管理(土橋律) - 安全工学会「安全工学 Vol.48 Vol.2」
フレームワークやベストプラクティスは、公的なオーソライズにそぐわない
フレームワークやベストプラクティスは、事業者が事業活動のマネジメントを進めていく上で効果的とされる手法をまとめたものです。しかしながら、これらの考え方は、公的なオーソライズにはそぐわない性格のものとなります。公的なオーソライズにそぐわない理由は以下です。
- その手法を規定することが困難である
- 以下の要素を規定するのが困難である
- 何を適用して何を適用しないのか
- どのようなリスクを許容するのか
- どれだけのリスクを許容するのか
これら「規定することが困難な内容」について、事業者自らが解析を行い、リスクが大きくなる原因を認識して対策を取る…フレームワークやベストプラクティスの意義はそこにあります。土橋律氏が「リスク管理は自主管理向きの手法である」と述べたのと同様に、「フレームワークやベストプラクティスは自主管理向きの手法」なのです。
旧来日本製造業型組織において、フレームワークやベストプラクティスを適用しようとすると何が起こるか
土橋律氏は、日本の製造業等における安全管理の考え方について、以下のような風潮があると言及しています。
安全上の対策について、法令や基準など公的にオーソライズされたものに従うことで事業者の安全確保の責務を果たしたと考える
旧来日本製造業型組織でそのままフレームワークやベストプラクティスを適用しようとすると、どうしても「フレームワークやベストプラクティスを無理やりオーソライズして、組織は『オーソライズされたものに従う』という体裁を取る」というアプローチにならざるを得ません。
かくして、沢渡あまね氏が言及するような「フレームワークやベストプラクティスに『使われて』しまう」という帰結に至るわけです。過去の「ISO認証の取得や更新をめぐり、各所で繰り返されるドタバタ劇→ISO認証が競争参加の要件とされないセクションにおけるISO認証の返上ラッシュ」などとも似たようなものを感じますね。
フレームワークやベストプラクティスを真に意味あるものとするために
土橋律氏は、「リスクによる安全管理を導入していくために必要なもの」として以下のように記述しています。
リスクによる安全管理を導入していくためには、まずはリスクの概念に対する正しい認識を関係者が持つことが必要である。そのためには、リスクの概念の正しい情報提供が不可欠である。リスク評価の講習や解説書などが最近増えているが、手法を学ぶ前にリスクの概念と既往の安全の考え方との違いについてしっかり認識することが肝心であると考えられる。
私個人としては、上述「リスクによる安全管理」を「フレームワークやベストプラクティス」と言い換えるなら、以下の内容になるのではないかと思います。
- フレームワークやベストプラクティスを真に意味あるものとするためには、まずフレームワークやベストプラクティスで言及されている概念に対する正しい認識を関係者が持つことが必要である
- フレームワークやベストプラクティスに対する正しい情報提供が必要である
- フレームワークやベストプラクティスの考え方と、既往の管理の考え方との違いについてしっかりと認識することが完全である
また、土橋律氏は、「安全の自主管理の重要性に対する認識」について以下のように記述しています。
オーソライズされた法令や基準にすべて適合していても、事故が発生してしまえば事業者は責任をのがれられない。自主管理は当然必要であり、対策の優先順位や目標設定が客観的に実施できるリスクを用いた安全管理の有用性についても理解が深まるはずである。
私個人としては、上述の言及をフレームワークやベストプラクティスに適用するならば、以下の内容になるのではないかと思います。
地域経済のリモート化を妨げるもの…公共工事依存の官製市場
きっかけ…地域経済のリモート化を妨げるもの
以下は、沢渡あまね氏執筆のnote記事「地方都市の中小企業こそデジタルワーク・オンラインワーク・テレワークを!」です。
この記事を読んで、個人的に「地域経済のリモート化を妨げるのは、公共工事依存の官製市場が地域経済の根幹をなしていることが大きな原因であろう」と考えました。以下解説です。
「地域経済のリモート化」と相容れない「公共工事依存の官製市場」
日本において「地方企業のリモート化」ないしは「地域経済のリモート化」を実現するためには、「地域の産業構造の転換」が必要となるケースが多いと思います。理由は以下の通りです。
- 大都市圏以外の地域の場合、地域経済が公共工事に大きく依存しているケースが少なからず存在する
- 「官製市場では、働く人・企業のリモート化の実現はおぼつかない」という事実を受け入れなければならない
「公共工事依存の官製市場」において、主役となるのは建設業です。建設業は、その事業性質上、(少なくとも現状においては)リモート化に物理的限界があります。ゆえに、現状成立している「公共工事依存の官製市場」は、「地域経済のリモート化」とは相容れないものです。
また、リモート化が容易な業種は、事業環境の不確実性が高く、「官が事業環境・市場構造をコントロールするのは非現実的である」というのを前提としなければなりません。その意味でも、「公共工事依存の官製市場」と「地域経済のリモート化」は相容れないものです。
なぜ「公共工事依存の官製市場」が続いてきたのか…官側から
「公共工事依存の官製市場」は、官側にとって政策立案・実行が大変楽ちんな市場です。理由は以下の通りです。
- 官が事業環境・市場構造をコントロールするのが容易である
- 事業者に対し、官が事業内容を統制することが可能である
建設業というのは、建設業法を根拠法規とする許認可事業であり、官が許認可の権限を有する事業です。また、建設業に対する官による具体的統制手段として、「経営事項審査制度」や「入札ランク制度」といったものが存在します。さらに、官は発注金額・発注タイミング等を通じ、「公共工事依存の官製市場」の市場規模や繁閑もコントロールできます。
「地域経済そのものが談合で成り立っているのではないか」という疑念
地域経済が「公共工事依存の官製市場」で成り立っている地域には、「地域経済そのものが談合で成り立っているのではないか」という疑念があります。そのような疑念を持つに至る原因としては、以下のような事柄があります。
- 外部事業者に対する排他的な姿勢
- 下請事業者に対する「俺らが養っている」という意識の存在
- 内部事業者が外部に進出しようとしない姿勢
「外部事業者に対する排他的な姿勢」は、「非競争を実現するための、内部事業者同士の結託」の原因となります。談合の主な原因の一つですね。
元請事業者が下請事業者に対して「俺らが養っている」という意識で接していると、下請事業者側も「特定の元請事業者に養われている」という意識を持ってしまいがちです。また、「下請事業者を養う」という意識は、「下請事業者を養うために、安定的で確実な受注が必要である」という考え方にもつながります。「安定的で確実な受注」を実現するための手っ取り早い手段、それが「談合」というわけです。
「内部事業者が外部に進出しようとしない姿勢」は、以下のような状況が主な原因と考えられます。
- 現状に最適化されすぎた組織構造、事業マインド
- 事業組織全体として、市場分析・マーケティング等の能力が欠如している
「今までの市場環境がぬるま湯にすぎたため、ぬるま湯の環境でしか生きていけなくなり、外部に進出しない・したくてもできない」…という帰結ですね。
まとめ
- 大都市圏以外の地域経済は、「公共工事依存の官製市場」に依存している場合が少なくない
- 「公共工事依存の官製市場」は、「地域経済のリモート化」とは相容れない
- 「公共工事依存の官製市場」は、官にとって維持・運営がこの上なく楽である
- 「公共工事依存の官製市場」で成り立つ地域経済には、「事業者が談合マインドで、地域経済そのものが談合によって成り立っている」という疑念が発生する
地域経済も「脱公共工事依存・脱統制・脱談合」でいきましょう!
twitter.com政策立案も事業経営も、脱公共工事依存・脱統制・脱談合でいきましょう! - 地方都市の中小企業こそデジタルワーク・オンラインワーク・テレワークを!|沢渡あまね @amane_sawatari #note https://t.co/e1M1tMOhvB
— 向本郷:\NTT用語系業界 (@S_Timer_Tech) 2021年8月3日
ガントチャートとバーチャートの違い、およびバーチャートのアンチパターン
ガントチャートとバーチャートとは
ガントチャートは、「プロジェクトを構成するタスクを上下方向に並べ、横軸に進捗率または日時を取り、左右方向に線を伸ばしていく」という図面です。進捗管理のツールとして広く用いられています。
一般的には、横軸に進捗率を取るものも日時を取るものもまとめて「ガントチャート」と称されています。一方で、建設業法上の資格の一種である「○○施工管理技術検定」においては、一般的にガントチャートと総称されるものを、さらに2つに分けています。以下その定義です。
- ガントチャート…横軸に進捗率をとるもの
- バーチャート…横軸に日時をとるもの
普段我々が「ガントチャート」と称するものは、施工管理技術検定的には「バーチャート」を指す場合が多いです。
なお、金融・証券業界においては、バーチャートというのは全く別の概念を指します。「バーチャート」というキーワードでWeb検索をかけると、金融・証券業界におけるバーチャートが検索結果に含まれるので注意が必要です。
バーチャートのアンチパターン…「逆線表」と「気合線表」
バーチャートは進捗管理のツールとして大変広く用いられています。しかしながら、「バーチャートが実効性を失う事態につながるアンチパターン」も存在します。そのようなアンチパターンの中で代表的なもの2つが、「逆線表」と「気合線表」です。
「逆線表」というのは、「先に納期を決めて(往々にして決まっていて)、納期から順にタスクを割り付けていく」という作り方がなされたバーチャートを指します。一方の「気合線表」というのは、「最初から達成不可能であることが明白な、無理な期間設定がなされたバーチャート」を指します。
気合線表の有害性
気合線表の有害性は、以下の2つであると認識しています。
- 進捗を測定する手段がなくなる
- スケジュールを守ろうという意識がなくなる
前者の「進捗を測定する手段がなくなる」というのは、「全く当てにならないスケジュールのみが存在する」ゆえの帰結です。後者の「スケジュールを守ろうという意識がなくなる」というのは、「最初から達成不可能であることが明らかなスケジュールである」ゆえの帰結です。
逆線表がアンチパターンである理由
逆線表がアンチパターンである理由は、大きく以下の2つがあると認識しています。
- 往々にして、「何を作るのか決まっていないのに、納期だけが先に決まっている」というパターンとセットで出現するものであるため
- 各タスクに割り当てられた期間に、多くの場合根拠がないため
上記2つはセットで出現する場合も多いです。「何を作るか決まっていないから、どのようなタスクが必要かも見当がつかない。ゆえに、タスクそのものが適当に設定されており、そこに割り当てられた時間にも当然根拠がない」といった形ですね。
新入社員研修と安全衛生教育の違い
はじめに
私の現所属企業・現所属部署における新入社員研修は、世間一般における実態と大きくずれているのではないかと考えています。どこがずれているのか、世間一般における新入社員研修とはどういったものなのか。私個人としては、「新入社員研修と安全衛生教育の違い」が核心なのではないかと考えるに至りました。
ということで、この記事では「新入社員研修と安全衛生教育の違いとは何か」というテーマについて解説を書いてみます。
現所属企業・現所属部署における新入社員研修
私自身は、この記事執筆時点において、NTT発注の電気通信工事の請負を主な事業とする企業において、NTT発注の電気通信工事の請負を行う部署に所属しています。当該部署における新入社員研修は、「新入社員研修」と言いつつ、実態としては建設業における「送り出し教育」に近いものとなっています。
「送り出し教育」とは
建設業における「送り出し教育」とは、「雇い主が実施する、現場作業に必要な知識・技能についての新規従事者向け教育」を指します。
労働安全衛生関係法令上、建設業におけるいわゆる「新規入場者教育」については、関係請負人または特定元方事業者が行うものとされています。以下、いわゆる「新規入場者教育」の法的根拠となる労働安全衛生規則第642条の3の規定です。
建設業に属する事業を行う特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われるときは、当該場所の状況(労働者に危険を生ずるおそれのある箇所の状況を含む。以下この条において同じ。)、当該場所において行われる作業相互の関係等に関し関係請負人がその労働者であつて当該場所で新たに作業に従事することとなつたものに対して周知を図ることに資するため、当該関係請負人に対し、当該周知を図るための場所の提供、当該周知を図るために使用する資料の提供等の措置を講じなければならない。ただし、当該特定元方事業者が、自ら当該関係請負人の労働者に当該場所の状況、作業相互の関係等を周知させるときは、この限りでない。
現実には、新規入場者教育は特定元方事業者自身が行う場合が多いです。「当該現場特有の危険性について最も熟知しているのは、一般的には特定元方事業者である」というのがその理由です。
「新規入場者教育は特定元方事業者が行う」となると、「じゃあ関係請負人は、自身の労働者に対し、労働安全衛生法上の安全衛生教育義務を満足するためにどのような施策を行うべきなのか」というという問題が出てきます。建設業界内部においてその答えとされている教育、それが「送り出し教育」なのです。
現所属企業・現所属部署における新入社員研修の実態
私の現所属企業・現所属部署において、新入社員研修の主な内容は以下の通りです。
- 就業規則・福利厚生・その他待遇についての教育
- 社内情報システムの取り扱いについての教育
- 労働安全衛生法上、現場作業に従事する上で必要とされる各種技能講習・特別教育
- 電気通信工事の技能労働者に必要とされる各種資格の取得についての研修
- 電気通信工事の技能習得を示すための各種資格等の取得にあたっての研修
- 光施工技術者育成課程
- メタル施工技術者育成課程
- 2級情報配線施工技能士
- NTT設備の工事を行うために必要な技能の習得についての研修
- 情報通信エンジニアリング協会「基礎研修線路科・統合科」
もろに現場で技能労働を行うことを前提とした研修内容です。実際、現所属部署における育成方針は、「新入社員研修終了後は、新卒入社3年目終了まで、現場で技能労働者としてNTT発注建設工事に従事し経験を積む」というのが基本的な方向性となっています。
一方で、ビジネスパーソンとして必要性が高いと考えられる以下のような内容の研修は、新入社員研修としては非常に希薄です。
- マネジメント工学
- 戦略的思考
結果として、本項冒頭でも書いた「新入社員研修とは言うが、実態としては送り出し教育」という一言に集約できる研修内容と言えるわけです。
他社における新入社員研修の事例
他社における新入社員研修では、一般に以下のようなカリキュラムが組まれています。
- 業務コミュニケーション
- ロジカルシンキング
- 企業財務・経営指標の見方
- プレゼンテーション
- 業種・職種に応じた特有のスキル
- 製造業におけるQCD
- 店舗販売業における接客行動
- その他様々
以上のようなカリキュラムの応用として、以下のようなユニークな内容の新入社員研修を行う事例もあります。
- 幼稚園研修(自動車ディーラー)
- 学校での出前授業(複合機等メーカー)
- 漫才研修(中古カー・バイク用品販売チェーン)
- 世界一の竹とんぼを作るモノづくり講座(電子部品メーカー)
- 35kmウォーキング(タクシー)
- 英国研修(ブリティッシュパブチェーン)
少なくとも対外的に広く知られる新入社員研修においては、「新入社員研修とは言うが、実態としては送り出し教育」というようなケースは皆無かと思います。
改めて、新入社員研修と安全衛生教育の違い
全体としては、「新入社員研修⊃安全衛生教育」ではないかと思います。「安全衛生教育は新入社員研修を構成するが、安全衛生教育が新入社員研修の全てではない」という意味です。一方で、私の現所属企業・現所属部署においては、「新入社員研修=安全衛生教育」という認識が強いのではないかと思います。