前置き
NTT通信建設業界の中の人は、事前説明なしで「サービス総合工事」「サ総工事」という言葉を使う場合が少なからずあります。
https://www.tec.mirait.co.jp/corporate-culture/human-resources/matsushita.htmlwww.tec.mirait.co.jp
http://www.comsys.co.jp/csr/closeup/comsys_way01.htmlwww.comsys.co.jp
その他、自社の施工実績としてサービス総合工事を挙げる通信建設会社は多々あります。
しかしながら、サービス総合工事そのものについての説明は、Google検索でもまともにヒットしないというのが実情です。というわけで、サービス総合工事という概念をこのエントリで説明してみたいと思います。
サービス総合工事とは
公共工事などで「単価契約工事」と呼ばれる概念を意味するNTT用語です。
単価契約工事
「単価契約」という言葉そのものは、どうやら法律で定義されたものではないようです。e-govを対象にGoogle検索をかけてみても、「単価契約という言葉の法的な定義」は見つかりませんでした。
一方、地方自治体の発注においては、「単価契約」という言葉は頻繁に使われます。以下はその一例です。
単価契約とは、一定期間内に反復継続して行う簡易な維持補修工事や、緊急の工事で数量を確定できない場合に、その規格や単価だけを決定し、金額はその給付の実績によって算出する契約をいいます。
単価契約は、総価契約に対する概念であって、総価契約がその目的、数量、金額、履行期限等の要素を確定のうえ契約するのに対して、少ない数量で同種のものを反覆継続して行う場合に、その都度契約することは事務処理上煩雑であるため、契約の目的である物又は役務の給付についてその規格及び単位当たりの価格だけを定め、金額はその実績に基づいて算定することを内容とした契約形態をいう。
サービス総合工事の発注・受注
NTT東西によるサービス工事の発注は、複数の収容局をひとまとめとした「サービス総合工事エリア」別に行われます。サービス総合工事の受注は、元請16社が資本系列1ごとに集約された3つの甲型JV2によって行われます。NTTの東西により各JVの構成メンバーは異なりますが、いずれにせよ、各JVとそのメンバーは以下の通りになります。
- コムシスJV
- エクシオJV
- ミライトJV
- ミライト・ワン(東西代表会社)
- TTK(東)
- ソルコム(西)
- 四国通建(西)
JV化当初は、エクシオJVに「エクシオテック」という会社も含まれていました。しかしながら、協和エクシオ(当時)の経営戦略により、エクシオテックは非NTT工事に特化することとなったため、現在のエクシオJVには含まれておりません。
サービス総合工事の特徴
サービス総合工事が単価契約工事であることを踏まえ、サービス総合工事には以下のような特徴があります。
- 毎日のように発生する小規模工程を対象とする
- 工程と単価を事前に合意し、契約する
- 地域・期間を定めた契約である
- 一定期間内に完成した工事を集約して精算する
- NTT東西は、サービス総合工事において完成した設備について、月末に一括して資産計上する
毎日のように発生する小規模工程
例えば「ユーザー宅への通信設備の開通工事」がこのような工程にあたります。
このような工程に対し、「発生する都度発注・施工し、竣工処理する」のは、事務処理が過度に煩雑になり非効率です。そのため、このような工程に対しては、建設工事の中でも特例的に「規格や単価だけを決定し、金額は実績に基づいて算定する」取り扱いが認められています。
一定期間ごとに精算する
「一件一件の工程の規模の小ささゆえ、都度発注・施工し、竣工処理するのは非効率」と言いました。しかし、建設工事の成果物を発注者に引き渡すためには、「竣工処理がなされ、受入検査に合格する」という条件がクリアされなければなりません。また、発注者としても、「自社の資産として計上できるものをいつまでも自社の資産として計上しない」というのは、「自社財務状況把握の正確性」「納税漏れの回避」などといった面で問題があります。
NTT東西のサービス総合工事においては、「毎月25日に締め処理を行い、月末に完成分を自社資産に計上する」という形態をとっています。締日から資産計上までの間にタイムラグがあるのは、NTT東西による受入検査に必要な期間を反映したものです。
本質的に定常業務である
プロジェクト型産業の典型とされる建設業において、「単価契約工事」という形態は特殊な契約形態です。「日々発生するような小規模な工事を一つの契約にまとめたものである」という特性上、そのあり方は、定常・定型業務のようなものになっていきます。
サービス総合工事の歴史
現在の形の「サービス総合工事」は、NTT東西分割前の1990年代前半に開始されました。1992年~1993年の試行導入を経て、1994年に全面導入に至っています。
単価契約請負工事
サービス総合工事の前身として、「単価契約請負工事」というものがありました。こちらは1958年試行導入・1959年全面導入であり、サービス総合工事に置き換えられて廃止となりました。
過去の単価契約請負工事と現在のサービス総合工事との相違点は、主に以下のとおりです。
- 単価契約請負工事には所内系工事が含まれていなかった
- 単価契約請負工事では年間総額が契約に含まれていなかった
サービス総合工事の問題点
サービス総合工事というのは、「事務処理の煩雑さを減らすことができる」という意味で、発注者側・受注者側両方にメリットがある便利な形態です。しかしながら、あまりにも便利すぎるため、逆に「本来プロジェクト型の工事として契約締結されるべき内容の工事にまで適用されてしまう」という問題があります。
また、特に受注側にとって、サービス総合工事は「改善へのインセンティブが働きづらい」という問題があります。「本質的に定常業務であり、かつ、容易に日銭を稼ぐことができる」という形態であるためです。
NTT通信建設業界におけるサービス総合工事に対する認識
NTT通信建設業界において、サービス総合工事は、「安定して利益を生み出すことができる事業」と考えられています。その理由としては、以下を挙げることができます。
- 本質的に定常業務であるため、日銭を稼ぐにはもってこいの工事形態である
- 各社長年に渡って同様の工事に従事しているため、必要経費や利益を高い精度で割り出すことができる
- 各社ともに、業務内容に熟練した従業員が多数在籍している
- 業界構造も含めて、受発注が安定している
また、NTT通信建設業界において、サービス総合工事の現場代理人はエリートコースとみなされています。通信建設会社が手掛ける工事案件の中でも、契約金額の規模が特に大きいためです。
サービス総合工事と連結子会社
NTT通信建設元請各社は、地域ごとに連結子会社を有し、設計・施工管理等の実務を当該連結子会社に外注しています。特にサービス総合工事の現場においては、元請事業者従業員は工事全体~工程の責任者クラス+OJT要員程度であり、設計・施工管理等実務の大半が連結子会社従業員によって担われています。
このような状況であるため、通信建設業界における業界再編は、「連結子会社の合併による業務効率化」が大きな目的の一つとされていました。「元請会社の経営統合に起因する、連結子会社同士の合併」には、以下のような事例があります。
- 新栄通信(協和エクシオ(当時)系)+ワコーシーテック(旧和興エンジニアリング系)+ワコーアイテック(旧和興エンジニアリング系)→新栄通信(エクシオグループ系)
- 大明ネクスト(旧大明系)+レナット東京(旧コミューチュア系)+東電通テクノス(旧東電通系)→エムズフロンティア(ミライト系)
- レナット関西(旧コミューチュア系)+大明エンジニアリング(旧大明系)+東電通エンジニアリング西日本(旧東電通系)→アストエンジ(ミライト・テクノロジーズ系)
- 金沢電話工事(北陸電話工事系)+みつぼしテクノ(NDS系)→北話エンジニアリング(北陸電話工事系)
- NTT東西発注の通信設備工事に従事する者の間では、通信建設会社の資本系列そのものを指して「JV」という語が使われています。「ITEA主催研修のJV移管」「3JV(=通信建設全国大手3グループ)の意見集約」等です。サービス総合工事の受注単位から転じたものと思われます。↩
- 甲型JVが組成されるようになった時点では、一部元請会社は全国大手3グループの系列ではありませんでした。しかしながら、甲型JV組成から1年ほどの間で全社が甲型JVの顔ぶれ通りに経営統合となりました。甲型JVの組成そのものが経営統合前提だったようです。↩
- 旧会社名は「協和エクシオ」です。同社は2021年10月1日付で会社名を変更しました。↩