today::エンジニアに憧れる非エンジニア

今のところは、エンジニアとは言えないところの職種です。しかしエンジニア的なものの考え方に興味津津。

監理と管理、この似て非なる言葉

建設業において、「カンリ」と読む重要概念は2つあります。「監理」と「管理」です。読み方が同じで大変紛らわしく、業界内部でも混同されることが多い言い回しなのですが、この2つの言葉が指す概念はそれぞれまったく異なります。

監理とは

「監理」というのは、一言でいえば「施主に代わり、工事が発注内容通りに進んでいるかを監督する」業務です。設計と施工が分離されている建設工事においては、原則として設計事務所所属の設計者が工事監理者となります。

施主の権利の代弁としての監理とは別に、「下請事業者に対する元請事業者の監理」というものも存在します。建設業法でいうところの「監理技術者」という法的職位は、下請事業者に対する元請事業者の監理業務の最高責任者という意味合いの職位です。

監理という職務においては、時として管理者の意に沿わない指示を行わなければならない場面も発生します。設計と施工を一体で行う「責任施工」という方式における監理業務は、時として利益相反行為になりかねない困難があります。

工事監理者の職務

「工事監理者」というのは、建築士法で決められた法的職位です。建設業29業種の中で直接関係するのは、「建築一式」「大工」「屋根」「タイル・れんが・ブロック」「鋼構造物」「内装仕上」の6業種となります。その他の業種においては、建築士法とは直接関係しないため、「工事監理者」という言葉の根拠が法律上直接存在するわけではありません。

建築士法における工事監理者の職務は、「工事と設計図書との照合および確認」と定められています。現場での実運用としては、「施主の立場から、適切な施工が行われているかどうかをチェックする」というのが主な職務となります。具体的には以下のような職務です。

  • 発注内容だけでは伝わりきらない発注者の要望を現場に伝える
  • 問題が起こりそうな箇所について現場監督に周知する
  • 抜き打ち検査を行う

現場を確認したのち、施主に報告します。

工事監理者は、原則として現場に在駐することはありません。必要なタイミングで検査を行い、現場で問題がないかをチェックしていきます。

監理技術者の職務

「監理技術者」というのは、建設業法で定められた法的職位です。建設業29業種の全てに関係します。

建設業法における監理技術者の職位は、「施工の技術上の管理をつかさどる技術者」と定められています。本質的に発注者側の職位である工事監理者と異なり、監理技術者は本質的に受注者(施工側)の職位です。

元請事業者の立場から、現場の技術水準が必要な水準に達しているかどうかをチェックします。

監理技術者は、現場に在駐しなければなりません。個人住宅を除くほぼすべての建設工事において、監理技術者は一つの現場の専任でなければならないと定められています。

管理とは

「管理」というのは、一言でいえば「工事現場を動かす」という業務です。受注側で責任を持って行う仕事となります。

建設現場における管理業務のトップは、法的には主任技術者であるとされています。

何を管理するのか

建設現場における管理業務の内訳は、大雑把にいって以下の4つです。順にQCDSに対応します。

  • 品質管理
  • 原価管理
  • 工程管理
  • 安全管理

建設現場における管理業務は、その重層下請構造ゆえに複雑なものとなります。「日々入退場が発生する技能労働者の管理」「請負系統に属する諸事業者の経営要員との打ち合わせ」といった業務も入ってきます。

「管理」という観点から捉えた、現場代理人の仕事

現場代理人というのは、「発注者に対する受注者(代表取締役)の代理人」を意味する職位です。建設工事請負契約の履行を発注者に対して約束します。

個人的には、「請負系統に属さないステークホルダーに対する管理業務」も、主任技術者の仕事ではなく、現場代理人の仕事であろうと考えています。「請負系統に属さないステークホルダー」の具体例としては、以下のような主体が考えられます。

  • 施主
  • 近隣住民
  • 官公庁

監理と管理の接点

元請事業者は、下請事業者・下請事業者所属の技能労働者に対し、監理と管理の両方を行います。

監理というのは元請事業者の当然の義務です。管理のほうは、安全管理や社会保険関係業務で発生します。

下請事業者に対する安全管理は、労働安全衛生法に定められた特定元方事業者の責務として行わなければなりません。一方、社会保険に関する下請事業者従業員の管理は、建設現場事業所の労災保険が元請一括加入であることに起因して発生します。

元請事業者が直営施工を行っている場合、自身の施工に対する管理業務も発生します。これもまた、監理と管理を一事業者が兼帯する例です。

下請事業者は、自身に対して管理を行います。さらに下請事業者が存在する場合、当該下請事業者に対する監理業務も存在します。

監理と管理の接点で難しいのは、「法的に必要な範囲(安全管理等)を逸脱した管理を下請事業者・下請事業者所属の技能労働者に対して行うと、元請・下請両者が法令違反に問われかねない」という点です。通俗的に「偽装請負」と言われる状態です。元請事業者が下請事業者に対して行うのは、本質的には「監理」にとどまらなければなりません。