導入
「IT系フリーランス」と「建設工事に従事する一人親方」。以下のような共通点があります。
しかしながら、業界内における位置づけは、以下のように大きく異なるものとなっています。
このような違いは、如何にして生まれたものなのでしょうか。「IT系フリーランスの働き方」についてはあまり知識がないので、以下「建設工事に従事する一人親方」の側から見てみたいと思います。
業務の危険有害性
「IT系フリーランス」と「建設工事に従事する一人親方」。その大きな違いの一つは「業務の危険有害性」です。
建設工事従事者が従事する業務は、IT系フリーランスが従事する業務ではありえないような、本質的に危険有害性を孕んだ業務であることが多いです。以下は「本質的に危険有害性を孕んだ業務」の一例です。
- 高所作業
- 重量物運搬作業
- 重機を用いる作業
- 自動車交通のある道路上での作業
上記のような業務の危険有害性に起因して、建設工事に従事する一人親方には、IT系フリーランスでは問題にならないような、以下のような問題が発生してきます。
現場の安全衛生マネジメントの実際と、その中における一人親方の立場
建設現場は、本質的に危険有害性を孕んだ業務が多く存在するため、「安全衛生マネジメント」が非常に重要なものとなっています。「安全管理」は、現場監督の4つの仕事の1つとされます。労働安全衛生法にも、「特定元方事業者」等、明確に建設業を対象とした規制の枠組みが存在するほどです。
建設現場における安全衛生マネジメントは、その大半を労働安全衛生法に依拠しています。しかしながら、労働安全衛生法の対象となるのは原則「労働基準法適用の労働者」のみです。一人親方等、「労働基準法上の労働者ではなく、事業主に分類される属性の作業従事者」は対象となりません。そのため、建設現場の安全衛生マネジメントにおいて、一人親方等は宙に浮いた扱いとなってしまいがちです。
労働安全衛生法上の「特別教育」について
例えば、労働安全衛生法第59条第3項により事業主が労働者に実施することが義務付けられている「特別教育」も、一人親方であれば法律上は対象となりません。一人親方は労働者ではないからです。
一方で、「従事する建設工事の請負契約約款」「加入する労災保険組合の規約」等により、「一人親方等の事業主であっても、現場作業に従事する場合、労働安全衛生法上の特別教育を受けなければならない」というルールになっている場合も多く存在します。
建設工事に従事する一人親方の労災保険加入
建設工事に従事する一人親方は、危険有害性が高い業務に従事しており、かつ、労働基準法が適用される労働者と変わらない働き方をする場合が多いです。そのため、本来は労働基準法が適用される労働者以外に認められない労災保険への加入が、「特別加入団体を通じての特別加入」という形で認められています。
労働安全衛生法における、建設業の特別扱い
建設業には、古くから重層下請構造が存在してきました。そのため、労働安全衛生法においても、建設業の元請事業者は業種名指しで「特定元方事業者」とされています。
元請事業者が特定元方事業者とされることによる影響は、末端の一人親方にまで及びます。元請事業者が特定元方事業者とされる事業のうち、元請事業全体で一定数以上の労働者が従事する事業の場合、関係するすべての下請事業者にも「安全衛生責任者」の選任が必要となります。この「安全衛生責任者の選任が必要となる下請事業者」には一人親方も含まれます。
建設工事に従事する一人親方の労働者性の高さ
「IT系フリーランス」と「建設工事に従事する一人親方」。その違いの一つとして、「建設工事に従事する一人親方の労働者性の高さ」も挙げられるでしょう。
建設工事に従事する一人親方は、IT系フリーランスに比べ、一般に労働者性が高いと考えられています。例えば、「事業主属性の者の労災保険加入」は、IT系フリーランスには認められない一方、建設工事に従事するに従事する一人親方は「特別加入」という形で認められています(上述)。
社保逃れの手段としての一人親方化
建設業界においては、昔から「社会保険加入義務を免れる目的で、雇用契約を結ぶことが妥当な働き方をする工事従事者を、請負契約に基づく一人親方として作業に従事させる」という脱法的な手口が横行してきました。その内実たるや、「社会保険料を負担しない脱法事業者が、社会保険料を適切に負担する事業者に比べ、低価格での入札が可能となるため、競争上優位に立つ」という事態すら問題になっているほどです。
「2020年10月1日以降申請の建設業許可において、適切な社会保険への加入が許可要件とされる」等、建設業における社会保険加入対策は強化が続いています。こうした中で、2020年前後には「社保逃れの手段としての一人親方化」が改めて問題となっています。