前書き
一般的なプロジェクトマネジメントと建設業の施工管理。 「利幅を確保し、要求品質を満足し、納期までに完成させる」という目的は同じです。 それゆえ、以下のような業務が存在する点については類似しています。
- 工程管理
- 原価管理
- 品質管理
しかしながら、建設業の施工管理には、一般的なプロジェクトマネジメントとの相違点も多く存在します。 建設業はプロジェクト型産業の中でも特殊性が高い産業であるためです。
この記事では、こうした「一般的なプロジェクトマネジメントと、建設業の施工管理の相違」について記述していきます。
安全管理の重要性
建設業は、全産業の中でもトップクラスに危険有害性が高い業務を伴う産業です。 「建設業に存在して、多くの他産業に存在しない危険有害業務」としては、例えば以下の業務が挙げられます。
- 高所作業
- 重機を用いた作業
- 重量物運搬作業
上記のような特有の危険有害業務の存在ゆえ、建設業における安全管理の重要性は、他業種とは比べ物にならないほど高いものとなります。 建設業においては、安全管理が工程管理・原価管理・品質管理と同列に扱われるのです。
労働者の安全確保を目的とする法律である労働安全衛生法においても、明らかに建設業を主な対象としたルール・制度が多く存在します。例えば以下のルールです。
- 労働安全衛生法に基づく免許、技能講習
- 特定の危険有害業務に従事する際に必要となる
- 対象は労働者に限らない
- 労働安全衛生法に基づく特別教育
- 労働者を特定の危険有害業務に従事させる際に必要となる
- 労働安全衛生規則による、作業環境についてのルールの設定
- 「転落防止措置が必要とされる作業環境」「必要な転落防止措置の内容」等
建設業法の存在
建設業は、建設業法という業法が存在する規制業種です。 規制業種である以上、仕事の進め方にも法的制約が発生します。 例えば以下のような制約です。
- 建設業法に基づき、業種が著しく細分化されている
- その数実に29業種
- 一定以上の規模の工事を受注する場合、建設業許可を取得しなければならない
- 建設業許可は上記業種ごとに必要となる
- 現場の技術水準を確保するため、各工事に対し、建設業法で定める主任技術者を配置しなければならない
- 場合によっては、より要件が厳しい監理技術者の配置が求められる
- 一括下請負は原則禁止である
- 公共工事や集合住宅の工事では例外なく禁止
- 請負契約における「仕事の遂行方法の自由」の例外である
- 契約行為に対しても、建設業法により制約が存在する
- 契約締結後の書面交付義務
- 下請事業者に対する代金の支払期限の存在
特に公共工事の場合、建設業法その他の要求に基づく書面の作成・交付は、施工管理において非常に大きな割合を占める業務となります。
重層下請構造の存在
建設業の仕事は、一般に重層的な下請構造により進められることになります。 その理由としては、以下のような事柄が挙げられます。
- 1つの事業者で仕事を完結させることが事実上不可能である
- 上述の通り、建設業内部でも業種が著しく細分化されている
- 管理側の業務の内容と現場作業側の業務の内容が著しく異なる
- 労働集約的な産業であり、「固定費の変動費化」が強く求められる
- 工事の進捗段階ごとに、必要な労働の内容・量が大きく異なる
- 現場作業を行う労働者の直接雇用は、固定費の発生要因として忌避される
重層下請構造の存在ゆえ、建設業の施工管理には、「外注業者管理」という独自のプロセスが発生します。 建設業法においても、「施工体制台帳の作成義務」等、重層下請構造を前提としたルールが多く存在します。
「特定元方事業者」という制度の存在
労働安全衛生法においても、建設業が重層下請構造であることを前提とし、建設業を主な対象とした安全管理のルールが定義されています。「特定元方事業者」というのがそれです。
特定元方事業者という制度は、「複数の事業者に属する労働者が一つの場所で混在して作業を行う状況において、下請事業者の安全管理の一部責任を元請事業者に負担させる」という趣旨の制度です。
特定元方事業者を元請とする事業においては、労働安全衛生法上、他業種にはない独自のルールが存在します。以下がその例です。
- 各種責任者の選任義務
- 統括安全衛生責任者
- 元方安全衛生管理者
- 安全衛生責任者
- 協議組織の設置義務
- 「災害防止協議会」「安全衛生協議会」等と称される
- 下請事業者の安全衛生教育に対する元請事業者の指導・援助義務
- その他、現場全体に適用される各種ルールの設定義務