today::エンジニアに憧れる非エンジニア

今のところは、エンジニアとは言えないところの職種です。しかしエンジニア的なものの考え方に興味津津。

「受発注の関係性」とは

概要

昨今、ビジネスの現場において、以下のようなテーマに言及される機会が増えているように感じます。

  • 事業者間の関係性について、受発注の関係性を脱し、協働・共創の関係性を築き上げるための方法論
  • 社内で受発注の関係性が発生していることに起因する諸問題

しかしながら、「受発注の関係性」という語句の意味に関する文献は、様々なリソースに散らばっています。「受発注の関係性」に関する考え方について、個人的に1箇所にまとめて記述する必要性を感じたので、この記事を書くに至った次第です。

受発注の関係性とは

私個人としては、以下の関係性を指すと解釈しています。

発注者が受注者に対し、自らの仕事の一部を委任するという契約に基づいて成立する関係性

プリンシパル=エージェント関係

以下2つの当事者によって成立する関係性を指します。

受発注の関係性は、「発注者をプリンシパル・受注者をエージェントとしたプリンシパル=エージェント関係」という側面が強く現れがちな関係性です。

プリンシパル=エージェント関係とは何か」については、以下の記事で簡単な説明がされています。

imidas.jp

請負契約の本質

請負契約は、以下2つの義務を根底とする契約といえます。

  • 当事者の一方(受注者)が、相手方(発注者)に対し、ある仕事を完成することを約束する
  • 発注者は、当該仕事の完成に対し、受注者に反対報酬を支払うことを約束する

請負契約に立脚する関係性は、「ステレオタイプ的な受発注の関係性になりやすい関係性」でしょう。

受発注の関係性のもとでは何が発生するか

発注者は以下のような考えを持つでしょう。

  • 「受注者が完成を約束した仕事の進捗を監視すること」を自らの責務であると考える
  • 「仕事」の範囲をできる限り広く解釈しようとする

一方で、受注者は以下のような考えを持つでしょう。

  • 「発注者に対し、約束した仕事の完成を認めてもらうこと」を目的として行動する
  • 「仕事」の範囲をできる限り狭く解釈しようとする

全体としては、以下のような事態が発生する危険性が高いです。

  • 発注者と受注者
  • 発注者が優越的地位を得る
  • エージェンシー・スラックが表面化する
    • 発注者と受注者の利害対立、またはそれに伴う軋轢

受発注の関係性の問題点

発注者による優越的地位の濫用

特に日本においては、受発注の関係性は、「発注者が優越的地位を得る」という関係性になりがちです。発注者が受注者に対して優越的地位を得た場合、往々にして「発注者が受注者に対する優越的地位を濫用する」という構図が発生します。「発注者による優越的地位の濫用」は、以下の事態の発生につながります。

  • 関係性の内実が、「受注者が発注者に対し一方的に責務を負う」という内実に変質する事態
  • 発注者が契約で定められた義務すら覆そうとする事態

受注側が必要最小限の行動しか行わなくなる

プリンシパル=エージェント関係におけるエージェントとしての受注者は、プリンシパルたる発注者の利益を最大化する責務を負っている一方、経済社会の一主体として自らの利益を追求する立場にあります。受発注の関係性において、受注者が発注者の利益を最大化する責務を負う範囲は、受発注の内容を定めた契約の範囲にとどまります。このような関係性において、「受注側が契約の範囲を超えて発注者の利益を最大化しようとする」という行動は、受注者自身の利益を損ねる事態になってしまいます。結果、受注側が必要最小限の行動しか行わなくなるわけです。

「協働」「共に新たな価値を作る」という考え方の不在

「発注者は仕事の範囲をできる限り広く解釈しようと考え、受注者は仕事の範囲をできる限り狭く解釈しようと考える」という図式が成立する環境のもとでは、発注者と受注者の間には、仕事の範囲をめぐる対立関係が発生します。仕事の範囲をめぐる対立関係が存在する環境下では、仮にメンバー個人が「協働」「共に新たな価値を作る」という考えを持っていたとしても、そのような考えは仕事の範囲をめぐる対立関係に埋没してしまうものです。

責任分界点に対し、異常なほど敏感になりがちである

仕事の範囲をめぐる対立は、「責任分界点に対する異常なほどの敏感さ」にもつながってきます。具体的には、以下のような事態の発生につながります。

  • 言い出しっぺの法則…言い出した側が責任を負うことになる
  • 「何を言ったか」より「誰が言ったか」が重んじられる
  • 責任を負いたくないあまり、「リスクを認識していても言わない」という行動が正当化されがちである

相互不可侵とされる領域が発生する

日本における「受発注の関係性」は、一般に「受発注者相互間における信義則の存在」を前提とするものです。「受発注者相互間における信義則の存在」は、「発注者と受注者の双方とも、契約上の権利義務の詳細まで立ち入るべきではない」という考え方を生みます。「契約上の権利義務の詳細まで立ち入らない」という考え方が暴走すると、相互不可侵とされる領域が発生するわけです。

相互不可侵とされる領域の発生は、以下のような問題の原因となります。

  • 関係性外部から見て、契約の実態が不透明になる
  • 優越的地位の濫用等、一方的な権利義務関係の存在が覆い隠されてしまう

関係性の外側が軽視される

「発注者と受注者が、お互いに相手側の当事者しか見えていない」という関係性の中では、以下のような事柄は軽視されがちになります。

  • 関係性の外側に及ぼす影響
  • その仕事を完成させることによってもたらされる社会的便益
  • その仕事を完成させた後、継続的に発生する責任やコスト