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今のところは、エンジニアとは言えないところの職種です。しかしエンジニア的なものの考え方に興味津津。

建設業は、日々「請負」という言葉の多義性に頭を抱えながら商売をする

まえがき

建設業は、請負に立脚して成立する業種です。建設業に関係する限り、「請負」という概念は業務に常に付いて回るものです。

しかしながら、建設業に関係する各種法律において、「請負」という概念は常に一つのものを指し表しているわけではありません。適用対象に応じ、「請負」という概念が何であるかは微妙ながら異なってくるのです。

建設業に従事する者は、互いに重なりつつも微妙に異なる複数の「請負」概念の違いに頭を抱えながら常日頃仕事をしています。この記事では、建設業について回る3つの「請負」概念について説明していきます。

注意

当記事は、日本国内の法令に関する解説を含みます。内容についてはできる限り正確を期していますが、内容の正確性について当記事の執筆者が責任を持つものではありません。ご自身が実際に遭遇された事件につきましては、法律関係の専門家にご相談ください。

「請負」という言葉の意味

建設業に関係する部分において、「請負」という言葉は、大きく以下の3つの意味を持ちます。

  • 民法上の典型契約としての「請負」
  • 建設業法における「建設工事の請負契約」
  • 労働法制における「請負」

民法上の典型契約としての「請負」

以下に民法632条の条文を示します。

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法上の典型契約としての「請負」は、上述民法632条の内容がその定義となります。大雑把には、以下の2つの義務関係から成る典型契約であることを意味します。

  • 当事者の一方がある仕事を完成することを約する
  • 相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する

建設業法における「建設工事の請負契約」

以下に建設業法第2条の条文を示します。

1 この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。
2 この法律において「建設業」とは、元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう。
3 この法律において「建設業者」とは、第三条第一項の許可を受けて建設業を営む者をいう。
4 この法律において「下請契約」とは、建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者と他の建設業を営む者との間で当該建設工事の全部又は一部について締結される請負契約をいう。
5 この法律において「発注者」とは、建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者をいい、「元請負人」とは、下請契約における注文者で建設業者であるものをいい、「下請負人」とは、下請契約における請負人をいう。

以下は、「建設工事の請負契約」の建設業法における初出である同法第18条の条文です。同法第19条以降にも、特に断りなしに「建設工事の請負契約」という語句が登場します。

建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない。

第18条までの建設業法において、「建設工事の請負契約」そのものについての定義はなされていません。しかしながら、建設業法第2条の条文から、「建設工事の請負契約」は「元請、下請その他いかなる名義をもってするかを問わず、建設工事の完成を請け負う契約」であると読むことができます。

建設業法における「建設工事の請負契約」は、民法上の請負契約であるとは限りません。例えば、後述する「オペレーター付きリース契約」が建設現場に対して行われた場合、民法上は非典型契約の一種である「リース契約」に該当する一方、建設業法上は「建設工事の請負契約」に該当するとされます1

労働法制における「請負」

以下に労働安全衛生法第15条第1項2の条文を示します。

事業者で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの(当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が二以上あるため、その者が二以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。以下「元方事業者」という。)のうち、建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)を行う者(以下「特定元方事業者」という。)は、その労働者及びその請負人(元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。以下「関係請負人」という。)の労働者が当該場所において作業を行うときは、これらの労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、第三十条第一項各号の事項を統括管理させなければならない。ただし、これらの労働者の数が政令で定める数未満であるときは、この限りでない。

上記労働安全衛生法第15条第1項において、労働法制における「請負」に関係する以下の概念が定義されています。

  • 元方事業者
    • 一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの
  • 特定元方事業者
    • 元方事業者のうち、建設業その他政令で定める業種3に属する事業を行うもの
  • 関係請負人
    • 元方事業者の事業の仕事の一部を請け負っている請負人

以降、労働法制上における元方事業者と関係請負人の関係性については、「元方事業者と関係請負人」という言葉を用いて言及することとします。

労働安全衛生法においては、「請負人」の定義そのものはなされていません。個人的には、「労働安全衛生法における『請負人』の定義は、民法上の請負契約が暗黙に前提とされており、実際そうである場合が多い。民法上の請負契約でなければ、労働安全衛生法における『元方事業者と関係請負人』の関係について問題が発生する場合がある4。」と認識しています。

「請負」という言葉の多義性の露頭…オペレーター付きリース契約

「建設現場に対する、建設機械等のオペレーター付きリース契約」というのは、その契約の性質により、「『請負』という言葉の多義性に関する問題」が一気に表面化する場になります。具体的には、以下のような事態が発生するわけです。

  • オペレーター付きリース契約は、民法上の請負契約ではない
    • 非典型契約の一種であるリース契約に該当する
  • オペレーター付きリース契約は、建設業法上の「建設工事の請負契約」である
  • オペレーター付きリース契約は、労働法制上の「元方事業者と関係請負人」という関係性には該当しない

労働法制における位置づけについては、少々込み入った話になるため、以下追加で説明します。

オペレーター付きリース契約は、労働法制上の「元方事業者と関係請負人」という関係性には該当しない

労働安全衛生法第33条には、「機械等貸与者等の講ずべき措置等」として、以下の規定が設けられています。

1 機械等で、政令で定めるものを他の事業者に貸与する者で、厚生労働省令で定めるもの(以下「機械等貸与者」という。)は、当該機械等の貸与を受けた事業者の事業場における当該機械等による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
2 機械等貸与者から機械等の貸与を受けた者は、当該機械等を操作する者がその使用する労働者でないときは、当該機械等の操作による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
3 前項の機械等を操作する者は、機械等の貸与を受けた者が同項の規定により講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。

逆に言えば、以下のような帰結をも意味するわけです。

  • オペレーター付きリース契約における機械等の借り主は、労働安全衛生法第33条に定められた義務を果たせば、労働安全衛生法に定められた責任は果たしたと解される
  • オペレーター付きリース契約に対しては、労働安全衛生法上の「元方事業者と関係請負人」という関係性には該当しない

厚生労働省通達「建設業における総合的労働災害防止対策の推進について(基発第0322002号 平成19年3月22日)」の別添資料2「建設業における労働災害を防止するため事業者が講ずべき措置」においても、「リース業者等に係る措置の充実」については、以下のように記載されています。

リース業者が貸与する機械設備については、そのリース業者の責任において、当該機械設備の点検整備等の管理を行うとともに、貸与を受けた事業者においても十分なチェックを行う体制を整備すること。なお、移動式クレーン等をリースする業者であって自らの労働者がリース先の建設現場において移動式クレーン等を操作するものについては、法第33条第1項の措置とともに、事業者としてクレーン等安全規則等に定められた措置を講ずること。

オペレーター付きリース契約に関する「移動式クレーン等をリースする業者であって自らの労働者がリース先の建設現場において移動式クレーン等を操作するものについては、…事業者として」という記述は、「労働安全衛生法に定める事業者責任を負うのはリース会社である(=さらには、借り主は事業者責任を負わない)」と解釈するのが妥当と思われます。

上述の帰結について、菊一功氏5は、著書偽装請負 労働安全衛生法と建設業法の接点にて以下のように述べています。

元請等からオペレータへの作業指示をもって労働者派遣法を適用し、派遣先としての事業者責任を問うことは、罪刑法定主義に反することになる。

結語

建設業においては、その事業の根幹をなす概念である「請負」が、「同じ語句でありながら、微妙に異なった複数の定義が存在する概念」となっています。それゆえに、建設業に従事する者は、日々「請負」という言葉の多義性に頭を抱えながら商売をしているのです。このような解釈問題は、存在するより存在しないほうが望ましいです。皆さんも、特に仕事上で新たな概念を定義する際には、「概念の意味は明確で単一の定義となること」を意識する必要があるかと思います。


  1. 少なくとも、国土交通省及び公共工事発注者においては、「建設現場に対するオペレーター付きリース契約は、建設工事の請負契約である」という解釈が一般的であるようです。建設機械のオペレーター付きリース契約は建設工事に該当しますか?-兵庫県
  2. 労働安全衛生法第15条第1項は、統括安全衛生責任者の選任義務・職務について定めた条文です。
  3. 政令で定める特定事業には、2021年8月現在では造船業が該当します。
  4. CM方式による安全管理に関する研究(高木元也・小林康昭・花安繁郎・吉田圭佑)によれば、「エージェンシー型CMでは、CMRは発注者と業務委託契約(筆者補足…民法上準委任契約)を結ぶ」「CM方式が採用されたとき、CMRが直接の請負関係を持たない建設業者に対して、統括安全管理を行いうるかが不明確である」という問題があるとされます。
  5. みなとみらい労働法務事務所所長・特定社会保険労務士・元労働基準監督官