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ジャパニーズトラディショナルな信義則

ジャパニーズトラディショナルな…

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ある程度以上の伝統を持つ日本の大企業に対し、「ジャパニーズトラディショナルカンパニー(JTC)」と呼ぶ場合があります。「日本の大企業のダメな部分を揶揄する」という意味合いを多分に含む表現であり、良い意味ではまず使われない表現です。

しかしながら、「信義則の日本独自解釈」というのは、そうした契約に関係する人でない限り、なかなか問題にはされません。当記事では、「日本独自の解釈がなされた信義則」を「ジャパニーズトラディショナルカンパニー」に倣って「ジャパニーズトラディショナルな信義則」と定義し、その定義や内実について言及していきます。

「ジャパニーズトラディショナルな信義則」とは

信義則に対する以下のような解釈のことを指します。日本のビジネスの現場においては、当たり前のものとして受け止められているのではないでしょうか。

  • 発注者・受注者双方に対し、モラルハザード1の発生を禁止する
    • 発注者は、受注者に過度の負担をさせないことを前提とする
    • 受注者は常に発注者の利益を第一に考え、発注者の利益を害して超過的な利益を得るような行動に出ないことを前提とする
  • 発注者は契約変更の影響を正確に評価できることを前提とする
  • 受注者は契約変更の必要性・規模について、立証責任及び立証義務を有さない
  • 受注者は契約不適合(旧…瑕疵担保)について無過失責任2を負う
  • 契約が想定しない事柄についての決定手段が、著しく具体性を欠く3ものである

かつての日本企業の代表的勝ちパターン

「ジャパニーズトラディショナルな信義則」は、多くのビジネスが日本国内で完結できていた時代において、日本企業の代表的な勝ちパターンの一つでした。「契約を極限までシンプルなものにすることにより、契約に割くリソースを最小限とし、生産活動にリソースを全振りすることができた」というのがその理由です。

なお、「ジャパニーズトラディショナルな信義則」が企業の勝ちパターンとして成立するためには、「契約当事者が同じ価値観を共有していること」が前提として必要とされます。実際、多くのビジネスが日本国内で完結できていた時代には、「契約当事者が同じ価値観を共有している」という前提も成立していました。

現代の日本企業の代表的な足かせ

一方、経営がグローバル化してくると、「ジャパニーズトラディショナルな信義則」は、逆に経営の大きな足かせとなります。

日本国外の事業者に、日本企業と同じ価値観を有することは期待できないですし、期待してもいけません。価値観を共有しない関係性の下では、「契約によって権利義務関係をデザインする」「契約によって紛争解決手段を定める」「契約によって補償を定める」といった営為が非常に重要になってきます。しかしながら、「ジャパニーズトラディショナルな信義則」を所与のものとして事業を展開してきた日本企業は、日本国外の事業者との間の契約をうまくデザインする能力が不足してくるのです。

実際、ゼネコンなどにおいては、「突発的な請求や費用の高騰により、海外案件で大赤字」という事態が多く発生しています。

www.nikkei.com

toyokeizai.net

プラントエンジニアリング大手が生きる道

私自身としては、日揮千代田化工建設といったプラントエンジニアリング大手は、「ジャパニーズトラディショナルでない信義則」に勝機を見いだせるのではないかと思います。「途上国を含めた海外建設案件を数多く手掛け、長年に渡り事業を続けている」というのは、「ジャパニーズトラディショナルでない信義則」について、相応のノウハウがなければ不可能であるからです。

参考文献


  1. 当記事では、「プリンシパル-エージェント関係におけるモラルハザード」を指します。「エージェントがプリンシパルに対して情報優位にある場合に、エージェントが自らの利益を図り、プリンシパルの利益を害するような行動に出る」という行動様式のことです。

  2. 「ジャパニーズトラディショナルな信義則」に基づかない契約であれば、一般に当該責任は過失責任とされます。

  3. 多くの場合、「甲乙協議の上定める」の一文のみです。