参考文献
本記事の内容は、以下の記事を参考文献としています。
- リスクによる安全管理(土橋律) - 安全工学会「安全工学 Vol.48 Vol.2」
フレームワークやベストプラクティスは、公的なオーソライズにそぐわない
フレームワークやベストプラクティスは、事業者が事業活動のマネジメントを進めていく上で効果的とされる手法をまとめたものです。しかしながら、これらの考え方は、公的なオーソライズにはそぐわない性格のものとなります。公的なオーソライズにそぐわない理由は以下です。
- その手法を規定することが困難である
- 以下の要素を規定するのが困難である
- 何を適用して何を適用しないのか
- どのようなリスクを許容するのか
- どれだけのリスクを許容するのか
これら「規定することが困難な内容」について、事業者自らが解析を行い、リスクが大きくなる原因を認識して対策を取る…フレームワークやベストプラクティスの意義はそこにあります。土橋律氏が「リスク管理は自主管理向きの手法である」と述べたのと同様に、「フレームワークやベストプラクティスは自主管理向きの手法」なのです。
旧来日本製造業型組織において、フレームワークやベストプラクティスを適用しようとすると何が起こるか
土橋律氏は、日本の製造業等における安全管理の考え方について、以下のような風潮があると言及しています。
安全上の対策について、法令や基準など公的にオーソライズされたものに従うことで事業者の安全確保の責務を果たしたと考える
旧来日本製造業型組織でそのままフレームワークやベストプラクティスを適用しようとすると、どうしても「フレームワークやベストプラクティスを無理やりオーソライズして、組織は『オーソライズされたものに従う』という体裁を取る」というアプローチにならざるを得ません。
かくして、沢渡あまね氏が言及するような「フレームワークやベストプラクティスに『使われて』しまう」という帰結に至るわけです。過去の「ISO認証の取得や更新をめぐり、各所で繰り返されるドタバタ劇→ISO認証が競争参加の要件とされないセクションにおけるISO認証の返上ラッシュ」などとも似たようなものを感じますね。
フレームワークやベストプラクティスを真に意味あるものとするために
土橋律氏は、「リスクによる安全管理を導入していくために必要なもの」として以下のように記述しています。
リスクによる安全管理を導入していくためには、まずはリスクの概念に対する正しい認識を関係者が持つことが必要である。そのためには、リスクの概念の正しい情報提供が不可欠である。リスク評価の講習や解説書などが最近増えているが、手法を学ぶ前にリスクの概念と既往の安全の考え方との違いについてしっかり認識することが肝心であると考えられる。
私個人としては、上述「リスクによる安全管理」を「フレームワークやベストプラクティス」と言い換えるなら、以下の内容になるのではないかと思います。
- フレームワークやベストプラクティスを真に意味あるものとするためには、まずフレームワークやベストプラクティスで言及されている概念に対する正しい認識を関係者が持つことが必要である
- フレームワークやベストプラクティスに対する正しい情報提供が必要である
- フレームワークやベストプラクティスの考え方と、既往の管理の考え方との違いについてしっかりと認識することが完全である
また、土橋律氏は、「安全の自主管理の重要性に対する認識」について以下のように記述しています。
オーソライズされた法令や基準にすべて適合していても、事故が発生してしまえば事業者は責任をのがれられない。自主管理は当然必要であり、対策の優先順位や目標設定が客観的に実施できるリスクを用いた安全管理の有用性についても理解が深まるはずである。
私個人としては、上述の言及をフレームワークやベストプラクティスに適用するならば、以下の内容になるのではないかと思います。