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「工事」という言葉の意味 - 電気事業、電気通信事業において

「事業用電気工作物、特に電気事業の用に供する電気工作物を相手とする電気工事」および「事業用電気通信設備を相手とする電気通信工事」については、「工事」という言葉の意味は2つある、という話です。

インフラ事業の業法における用語としての「工事」

電気事業や電気通信事業においては、それぞれの業法で「工事」という言葉が使われています。これらの法律における「工事」は、建設業法上の「工事」とは異なる概念を指すものです。

電気事業用語としての「工事」

以下は電気事業法第1条の条文です。

この法律は、電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによつて、電気の使用者の利益を保護し、及び電気事業の健全な発達を図るとともに、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによつて、公共の安全を確保し、及び環境の保全を図ることを目的とする。

立法目的の中で「工事」という語が使われています。

続いて以下は電気工事士法第2条3項の条文です。なお、電気工事業の業務の適正化に関する法律(以下電気工事業法)においても、同項の定義をもって「電気工事」とされています(一部除外されるものあり)。

この法律において「電気工事」とは、一般用電気工作物又は自家用電気工作物を設置し、又は変更する工事をいう。ただし、政令で定める軽微な工事を除く。

電気工事士法においては、上述のように「電気工事」という語の定義が明確になされています。

電気通信事業用語としての「工事」

以下は電気通信事業法第45条の条文です。

電気通信事業者は、事業用電気通信設備の工事、維持及び運用に関し総務省令で定める事項を監督させるため、総務省令で定めるところにより、電気通信主任技術者資格者証の交付を受けている者のうちから、電気通信主任技術者を選任しなければならない。ただし、その事業用電気通信設備が小規模である場合その他の総務省令で定める場合は、この限りでない。

以下は電気通信事業法71条第1項の条文です。

利用者は、端末設備又は自営電気通信設備を接続するときは、工事担任者資格者証の交付を受けている者(以下「工事担任者」という。)に、当該工事担任者資格者証の種類に応じ、これに係る工事を行わせ、又は実地に監督させなければならない。ただし、総務省令で定める場合は、この限りでない。

電気通信事業においても、「電気通信主任技術者制度の法的裏付け」「工事担任者制度の法的裏付け」という文脈の中で「工事」という語が使われています。

「電気通信工事」という語の定義については、電気通信事業法の中には見つけ出すことができませんでした。この点は、電気工事士法に明確な定義が存在する「電気工事」とは異なります。

建設業法上の用語としての「工事」

上述インフラ事業の業法における用語としての「工事」とは別に、建設業法上の用語としての「工事」という概念が存在します。以下は建設業法第2条第1項の条文です。

この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。

電気事業しかり電気通信事業しかり、その設備の「工事、維持および運用」は、請負契約1に基づく外注によって行われる部分が大半を占めます。このような契約は、建設業法で定める「建設工事の請負契約」に該当します。

「主任技術者」という語の紛らわしさ

電気事業・電気通信事業、いずれも「主任技術者」と末尾につく職位が存在します。「電気主任技術者」「電気通信主任技術者」というやつですね。

しかしながら、電気事業法電気通信事業法による「○○主任技術者」とは別に、建設業法にも「主任技術者」という職位が存在するのです。紛らわしいですね。しかも、それぞれが「電気事業法電気通信事業法上の工事」「建設業法上の工事」という、同じ言葉なのに異なる概念に係ってくるのです。大変紛らわしいです。

電気主任技術者電気通信主任技術者というのは、電気事業者あるいは電気通信事業者が選任する必要のある職位であり、建設工事においては発注者側の職位ということになります。建築系の工事における「工事監理」に類似する職務を行う、という認識でも問題ないと思われます。

一方で、建設業法上の「主任技術者」というのは、建設事業者が選任する職位となります。建設工事においては受注者側の職位ということになります。工事の「監理」ではなく「管理」を行う側の職位、ともいえます。

「電気工事」という語の紛らわしさ

「電気工事」という語については、全く同じ語に「電気工事士法電気工事業法上の電気工事」「建設業法上の電気工事」2つの意味が含まれることになります。その結果、業として一定規模以上の電気工事を行おうとする場合、「電気工事業法上の電気工事に関する義務」と「建設業法上の電気工事に関する義務」の両方が発生します。紛らわしいですね。

例えば、電気工事を行う事業者には、営業所単位で以下の技術者配置義務が発生します。

  • 主任電気工事士の設置義務
  • 専任技術者の設置義務
    • こちらは建設業法に基づく義務となります

結語

「工事」や「主任技術者」という語との関わりは、「電気事業者や通信事業者から建設工事を請け負う」という業態で仕事をするならば、職業人生の全てにおいて発生するものです。一方で、「工事」や「主任技術者」という語は、同業態と関係が深い複数の法律において、それぞれ異なる意味で同じ語が使われている語です。大変紛らわしく、場合によっては混同が発生することもあるかもしれません。同業態で職業人生を送る人は、これらの語がどのような意味で使われているかには、努めて注意を払わなければなりません。


  1. 契約内容によっては、民法上準委任契約と解釈される場合もあるかもしれません。