擬制的親子関係とは
「実の親子以外の者同士が双方合意の上で有する、互いに実の親子であるかのような一定の役割関係」を指す語句です。
擬制的親子関係という習慣は、洋の東西問わず見られる習慣です。例えば以下のような関係は、擬制的親子関係の一種と言えるでしょう。
- 日本における「烏帽子親制度」「仮親/猶子制度」
- カトリック圏における「代父・代母/洗礼を受ける子どもの関係」
擬制的親子関係の当事者の間には、一般に「義理と人情を伴った庇護・奉仕」の関係が存在します。
企業社会における擬制的親子関係
日本における伝統的終身雇用慣習には、雇用主と被雇用者との間に、擬制的親子関係が存在すると言えるのではないかと思います。具体的な庇護・奉仕関係の内容は、以下の制度・慣習の存在が一例と言えます。
- 雇用主が被雇用者に提供する庇護
- 定年までの終身雇用
- ステレオタイプ的なライフスタイルに応じ、各時点で必要となる費用を反映した給与の支給(生活給)
- 被雇用者が雇用主に提供する奉仕
- キャリアプランや働き方の雇用主への一任
- 特に若年期における、自らの人材価値に対して低い報酬での労働
私個人としては、「日本においては、雇用以外にも、『発注/受注』『請負』という事業者間の関係性にも擬制的親子関係が存在する」と考えています。具体的には、「以下のような慣習に擬制的親子関係が現れている」という考えです。
- 専属下請
- 発注者主導による、専属性の高い受注者の組織化(協力会組織)
- 発注者から受注者への、正当性のある説明が不可能な天下り
企業社会における擬制的親子関係の問題
企業社会における擬制的親子関係には、以下のような問題があると考えています。
- 組織形態がヒエラルキー型にならざるを得なくなる
- 「仮親」を頂点、「猶子」を底辺とするピラミッド型構造
- 「猶子」と位置付けられた事業者・個人が自主性を失う
- 「仮親」と位置付けられた事業者において、従業員以外のステークホルダーの利益を毀損する施策が正当化される
- 擬制的親子関係に生きる事業者・個人は、「成人同士の関係」を築くのが困難になる
「企業社会における擬制的親子関係」というのは、戦後復興期~高度経済成長期~バブル期の日本において、「日本社会の勝ちパターン」として作用してきたのは確かです。しかしながら、「豊かな社会が実現し、右肩上がりの成長が見込めなくなり、量より質を提供することが求められる」という現状においては、「擬制的親子関係の存在が、社会が求める質の提供に対して足かせとなっている」のではないかと思います。