架空電気通信線路において、つり線は、非自己支持形ケーブルの張力を受け持つために用いられる構造部品です。一方、SSケーブル(自己支持形ケーブル)の張力は、SSケーブルの構造の一部である支持線が受け持ちます。
架空電気通信線路建設において、「つり線架渉」は、「電柱・支線新設」の次の手順となります。さらに次の手順は「リング・ハンガ類新設」及び「ケーブル架渉」となります。支持線と一体成型されたケーブルであるSSケーブルの架渉も、つり線架渉と概ね同様の手順により行われます。
各種留意事項
安全上の留意事項
つり線・SSケーブルの架渉は、労働安全衛生法でも危険有害業務とされている業務を多分に含む作業です。労働者が同作業に従事する場合、当該作業従事者は、労働安全衛生法上の一定の資格を取得している必要があります。
想定される危険性
つり線・SSケーブルの架渉において想定される危険性としては、以下のようなものが挙げられます。
- 屋外作業に起因する危険性
- 道路上作業に起因する危険性
- 高所作業に起因する危険性
- 重量物取扱いに起因する危険性
- (機械力を用いる場合)機械力を用いることに起因する危険性
- 刃物を用いることに起因する危険性
- 車両を用いることに起因する危険性
- 張力作業に起因する危険性
- 道路横断作業に起因する危険性
- (つり線架渉作業の場合)鋼撚り線に起因する危険性
必要となる資格
つり線・SSケーブルの架渉において必要となる資格は、以下のようなものが挙げられます。
- 柱上作業に必要となる資格一般
- 高所作業車(10m未満)特別教育修了、または上位資格
- フルハーネス型墜落制止器具特別教育修了
- (ドラムの持ち上げに機械力を用いる場合)玉掛け特別教育修了、または上位資格
- (延線に機械力を用いる場合)巻上げ機特別教育修了
その他の留意事項
つり線・SSケーブルの架渉は、複数人の協力によらなければ成り立たない作業です。当記事これ以降の記述で作業手順を追っていく中で、「これは1人でできる種類の作業ではない」という記述は多数存在します。
つり線・SSケーブルの架渉に限らず、通信建設業界で「外線工事」と総称されるカテゴリの工事は、一般に1人で完成させることができる種類の工事ではありません。1人で完成させることができない種類の工事では、「一人親方」という労務提供の形態は本質的に成り立ちません。外線工事カテゴリで一人親方が存在する場合、偽装請負1を疑ってかかったほうがいいと思われます。
つり線・SSケーブル架渉の手順
「つり線設置区間の各電柱に対し、必要な装柱設備は取り付けられていること」を前提とします。「つり線・SSケーブル架渉に必要な装柱設備」としては、以下を挙げることができます。
- 両端の電柱における電柱バンド
- 中間の電柱における吊架金物2
つり線・SSケーブルの架渉の基本的な手順は以下のとおりです。
- メッセンジャーワイヤードラムをジャッキに設置する
- 各柱に設置した電柱バンドに巻付けグリップを設置する
- つり線を設置する電柱間に、金車を掛けるための仮ロープを渡す
- 仮ロープに金車を掛け、金車内に引き綱を通す
- つり線本体を架渉する
- つり線本体の架渉に使用した金車・仮ロープを撤去する
メッセンジャーワイヤードラムのジャッキへの設置
本記事における「ジャッキ」は、「ケーブルドラム用ジャッキ」や「ドラムジャッキ」と称される器具を指します。
つり線ドラムにジャッキを設置する手順は以下のとおりです。
メッセンジャーワイヤーは鋼撚り線であり、メッセンジャーワイヤードラムは人力で扱うには相当に大きな重量があります。事故なく取り扱うには、相応に強靭な筋力と細心の注意が必要となります。
各柱に設置したバンドへの巻付けグリップの設置
つり線両端となる電柱に設置された電柱バンドに、つり線を固定するための巻付けグリップを設置します。巻付けグリップは、取り付ける鋼撚り線の太さに対応したものを設置する必要があります。
電柱間への仮ロープの渡し
つり線両端となる電柱の間・つり線を架渉する地上高に、金車を掛けるための仮ロープを渡します。
仮ロープを渡す際、仮ロープは各電柱に結びつけます。結びつけの固さは以下が目安です。
- 架渉作業中に仮ロープが取れない程度に固く結びつける
- 架渉作業後に仮ロープを撤去できる程度に結びつけは緩くする
金車・引き綱の設置
使用する道具は「操作棒」及び「金車」となります。
www.fujii-denko.co.jp ↑NTT発注の通信建設工事において、操作棒及び架渉用金車は、藤井電工製品を用いるのが常です。
www.yasuda-s.jp ↑4号金車を含む製品情報です。
操作棒は、ベルブロックをつり線等に引っ掛けるのと同じ操作棒を用います。金車を仮ロープ等に引っ掛ける技能も、ベルブロックをつり線等に引っ掛ける際に用いる技能と同じです。
つり線・SSケーブル架渉に用いる金車は、主に「架渉用金車(藤井電工 OA-40またはOA-60)」と「4号金車」の2種類となります。
架渉用金車は、ホイールが1つついた金車です。架渉区間の一般的な中間地点に用います。特に「藤井電工 OA-40またはOA-60」という品番の架渉用金車は、操作棒で通線部の開け閉めができる構造になっており、NTT東西発注工事における金車の設置・撤去は地上から操作棒を用いて行うのが常となっています。
4号金車は、ホイールが4つついた金車です。つり線やケーブルの繰出し点・牽引点・屈曲点等、架渉時に大きな力がかかる特定の地点に用います。
金車・引き綱の設置の全体の手順は以下の通りです。
- あらかじめ地上で金車に引き綱を通しておく
- 金車を操作棒で仮ロープの高さまで持ち上げ、仮ロープに引っ掛ける
- 操作棒を金車から外し、地上に降ろす
- 必要な数の金車を設置し終わるまで以上の手順を繰り返す
なお、4号金車のみは、人が高所に昇って引き綱を通し、仮ロープに固定します。4号金車は、操作棒でつり線等に引っ掛けることができる構造になっていないためです。
つり線本体の架渉
つり線本体の架渉は概ね以下の手順で行います。
- 引き綱の端にメッセンジャーワイヤーを接続する
- 引き綱を牽引し、メッセンジャーワイヤー(つり線本体)を延線する
- つり線本体を仮固定する
- つり線本体に所定の張力をかけ、本設用に固定する
- 架渉作業に使用した金車・仮ロープを撤去する
引き綱の端へのメッセンジャーワイヤーの接続
引き綱とメッセンジャーワイヤーの接続には、巻付けグリップやシャックル等を用います。メッセンジャーワイヤーが延線中によれたり絡んだりしないようにするために、引き綱とメッセンジャーワイヤーの接続点のは「より戻し」を設置します。
引き綱の牽引、延線
牽引点で引き綱を牽引し、ドラムに巻いてあるメッセンジャーワイヤーを電柱間に延線していきます。これがつり線本体となります。メッセンジャーワイヤーのドラムからの繰り出しを、労働者が機械力を用いて行う場合、繰り出し作業にあたる作業者は「巻上げ機運転特別教育を修了していること」が必要条件となります。
延線中に道路横断が発生する場合、道路横断箇所では必ず所定の地上高を確保しなければなりません。十分な地上高を確保しないのは、「延線作業中に引き綱やつり線本体が地上の人や物を引っ掛ける」といった第三者加害事故を発生させる事態につながります。
つり線本体の仮固定
延線作業が牽引箇所まで達したら、次は各中間柱において、吊架金物へつり線本体を仮に固定する作業を行います。この時点では、固定部の締め付けの強さは「吊架金物からつり線本体が脱落せず、かつ、吊架金物上でつり線本体が前後に動くだけのあそびがあるように」とします。この段階でつり線本体が吊架金物にきつく固定されていると、端末柱におけるつり線の張力の調整に支障をきたします。
つり線本体の本設用の固定
つり線本体を電柱に本設固定する手順は以下の通りです。
- 牽引側の電柱にて、つり線を巻付けグリップに固定する
- 繰出し側の電柱にて、つり線を固定・切断する
- 中間柱にて、吊架金物につり線を本設固定する
繰出し側の電柱においてつり線を固定・裁断する手順は以下の通りです。
- 張線器(シメラー)を用いて、つり線を電柱に仮固定する
- 張線器でつり線にかかる張力を調整する
- つり線にかかる張力を決定したら、つり線を巻付けグリップに固定する
- 巻付けグリップのドラム側でつり線を裁断する
金車・仮ロープの撤去
つり線本体の架渉に用いた金車及び仮ロープは、架渉作業が完了したら当然撤去して持ち帰らなければなりません。金車・仮ロープの撤去作業には、「人が高所に昇って行う必要がある作業」と「地上から操作棒を用いて行うことができる作業」の両方があります。
人が高所に昇って行う必要がある作業は以下です。
- 繰出し点・牽引点・屈曲点等における4号金車に対する作業
- 架渉したつり線本体を4号金車から外す作業
- 4号金車を仮ロープから外し、持ち帰る作業
- 中間柱における仮ロープの結び目の除去
- 結び目を除去するついでに、仮ロープを地上に降ろす作業を行う
地上から操作棒を用いて行うことができる作業は以下です。
- 架渉したつり線本体を架渉用金車から外す作業
- 架渉用金車を仮ロープから外し、地上に降ろす作業
SSケーブル特有のトピック
SSケーブルの架渉も、基本的には当記事ここまでに記述したつり線の架渉手順と同様の手順によって行います。しかしながら、SSケーブルの架渉には、つり線の架渉にはない特有の手順・注意事項が存在します。
首部切裂
SSケーブルの支持線部を電柱等に固定する際は、固定に用いる支持線部をケーブル部と分離する必要があります。SSケーブルにおいて、支持線部とケーブル部を分離する工程を「首部切裂」といいます。
ラインガード
SSケーブルの支持線部を中間柱に固定する場合は、支持線部の被覆を除去せず、支持線部にラインガードを取り付け、ラインガードの上から吊架金物3で固定します。
SSケーブルのつり線部の端末柱への固定
SSケーブルの支持線部を端末柱に固定する際には、単独のつり線を端末柱に固定する場合と同様、「巻付けグリップを用い、張力を調整して固定する」という作業を行います。
SSケーブルの支持線部のうち、巻付けグリップを取り付ける部分は、巻付けグリップを取り付けるにあたり被覆を除去する必要があります。一方で、支持線部の切断位置から一定の長さの範囲については、被覆を残す必要があります。
スパイラルスリーブ
www.denkensha.co.jp ↑電研社の製品説明です。スパイラルスリーブの生産メーカーは他にも数社あります。
SSケーブルにおいて、架渉作業のために支持線部と分離されたケーブル部に対しては、スパイラルスリーブによる防護を行います。電柱・つり線・金物等とケーブル被覆は、直接接触しないようにする必要があるためです。