「自分の仕事に値段をつけられない構造」とは
ある事業が「事業」としてまともに成立しているならば、その事業は「自分の仕事に値段をつけられる構造」が存在していると考えてよいでしょう。具体的には、以下のようなメカニズムに基づいて仕事に値段がつけられます。
- その仕事に対する購入者のブランドイメージ
- 同様の仕事の市場価格・相場
- 他事業者との競争状況
しかしながら、世の中には上述のような状況が成り立っていない事業が少なからず存在します。そのような構造を「自分の仕事に値段をつけられない構造1」として、「自分の仕事に値段をつけられない構造」の問題点について記述していく…というのが本記事のテーマです。
「値段がブランド価値を生む」という現実への無頓着
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「値段付けはブランド価値の根底となるもの」であり、「安売りは長期的にブランド価値に致命的な悪影響を及ぼす」というのは、販売行為に従事する人であれば、上記記事に限らずイメージできるものでしょう。
一方で、「自分の仕事に値段をつけられない構造」の場合、市場に参加する事業者も「値段を安くしなければ受注できない」という価値観を強く有しているのが一般的です。その結果、「同じ値段で多くの付加価値をつける」「付加価値が同じなら値段を安くする」という発想を皆が行い、「悪気なく自分を安売りする」「悪気なく知識労働を安売りする」というパターンに至るわけです。市場全体が「自分を安売りして、結果自分の価値を下げてしまう」というアンチパターンに陥るわけですね。
「自分がしている仕事の相場感」がわからない状況
特に建設業においては、「発注者が決めた値段が先に存在し、そこから受注各段階でマージンを引いていったものが各事業者の取り分となる2」「発注者による値段付けは、コストの積み上げによって行われる」という現実が存在します。そのような状況では、価格決定メカニズムに対して無頓着となることは避けられません。
「自分がしている仕事の相場観がわからない」という状況のもとでは、「異常な安値で仕事を受注しても、それが当たり前だと思ってしまい、異常な安値で仕事を受注していることに気づかない」という問題が発生します。「異常な安値」が上述の「価格がブランド価値を生む」という現実と合わさると、「業界全体が自分を安売りする」という構図となり、外からも「あの業界は自分を安売りする業界だ」「あの業界が相手なら足元見ても問題ないぞ」というイメージを持たれ、業界全体が等しく苦しむようになるのです。
「事業主」という概念に対する誤解
「自分の仕事の値段を自分でつけることができる」というのは、事業主という概念を成立させるための必要条件です。対偶を取ると、「自分の仕事の値段を自分でつけられない者は事業主ではない」となります。
しかしながら、「自分の仕事に値段をつけられない構造」のもとにおいては、「自分の仕事の値段を自分でつけていない者が『事業主』と称する」というケースが多々発生します。「実際には労使メカニズム3で仕事の値段が決まっているにもかかわらず、受注側が自分を『事業主』と考えてしまう」というようなパターンですね。
「値段以外に競争力を見いだせる要素がない」という現実
特に建設業においては、工法等は既にコモディティ化しているのが一般的です。また、公共性が強い工事においては、「諸事情により、適用する工法そのものも事前に決まっている4」というケースが少なくありません。そのような状況では、「価格以外に競争力を見いだせる要素がない」という厳しい現実が存在します。
「値段以外に競争力を見いだせる要素がない」となると、「際限なき価格競争により、業界全体が等しく疲弊していく」という構図になるのは避けられません。