today::エンジニアに憧れる非エンジニア

今のところは、エンジニアとは言えないところの職種です。しかしエンジニア的なものの考え方に興味津津。

公共工事の問題地図

着想 - 地方都市の問題地図

note.com

本記事の着想元となった、沢渡あまね氏発表の「地方都市の問題地図」です。

実物 - 公共工事の問題地図

地域雇用の
土建業依存
地域雇用の 土建業依存
地域土建業の
公共工事依存
地域土建業の 公共工事依存
1.「地方だから」
「製造業だから」
1.「地方だから」...
(追加)
「土建業だから」
(追加)「土建業だから」...
住民の
政治不信
住民の 政治不信
地域土建業と
政治の癒着
地域土建業と 政治の癒着
公共投資に対する
住民の無知・無理解
公共投資に対する 住民の無知・無理解
改善されない
道路インフラ
改善されない 道路インフラ
3.下請け思考
3.下請け思考
2.横並び主義
2.横並び主義
談合により
仕事を回す
談合により仕事を回す...
固定的な
勤務体系
固定的な 勤務体系
土建業の特性
現地生産
労働集約
土建業の特性現地生産・労働集約...
地域政治の
土建業依存
地域政治の 土建業依存
ITや改善にも
投資しない
ITや改善にも...
問題や理不尽に気づかない/
放置する
問題や理不尽に気づかない/ 放置する
土建業の
イテレーション
長さ
土建業のイテレーションの長さ...
6.井の中の蛙
土建業の
変化しない
産業構造
土建業の変化しない産業構造...
知識労働の軽視
知識の安売り
知識労働の軽視知識の安売り...
8.見えないものを評価しない/
お金を出さない
8.見えないものを評価しない/...
指名競争入札
非常に少ない
創意工夫の余地
非常に少ない 創意工夫の余地
地元同規模事業者のみでの競争
地元同規模事業者のみでの競争
代わり映えしない
メンバー
代わり映えしない メンバー
行政の
無謬性神
行政の 無謬性神
気合・根性主義
気合・根性主義
契約軽視/
契約不完備
契約軽視/契約不完備...
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上図は、以下のツイートの内容をさらに再検討・要素追加等行ったものです。

なぜこんなものを描いたか

大都市圏以外の都市圏、および非都市的地域においては、「公共工事を主たる収益源とする建設業が地域の主要産業となっている」というケースが多々あります。ここでの「主要産業」というのは、「地域の経済活動」「地域の雇用の担い手」という意味にかかるものです。

公共工事が経済活動の主役となっている地方都市が少なからず存在する以上、「地方都市の問題地図」を描くにあたり、公共工事に関する問題を無視することはできません。ゆえに、元々の「地方都市の問題地図」のパーツにつなげる形で「公共工事の問題地図」を描いた、という次第です。

意味についてさらに解説

指名競争入札の帰結

日本の公共事業における入札ランク制度は、「低ランクの事業者が入札に参加することを禁止する制度」であるのみならず、「高ランクの事業者が入札に参加することを禁止する制度」でもあります。大手事業者がその規模に比べて小規模の工事の入札に参加することはできません。また、指名競争入札を採用する大きな理由として、「地元事業者以外の排除」という要素があることは否定できません。ゆえに、「指名競争入札」は「地元同規模事業者のみでの競争」という帰結に至るわけです。

また、指名競争入札において同一地域・同一規模の工事の入札に参加するメンバーは大体同じとなるので、その分談合もやりやすくなるわけです。

行政の無謬性神話に関して

行政の無謬性神話から気合・根性主義に至るまで

公共工事において行政の無謬性神話が表向き成り立っているように見せるためには、「契約を不確実なものとし、受注者にしわ寄せを押し付ける」という手法が取られます。契約にはない事柄が押し付けられるので、受注側は気合・根性で解決しなければならなくなります。

渡邊法美氏の講演資料わが国の公共工事入札・契約制度改革に関する一考察を解釈すると、具体的には、以下のような要素がしわ寄せの対象となります。

  • 膨大な工事量を年度内に完工させる→未確定な顧客要求
  • 会計検査に対して無難に対応する→過確定な現場生産性向上手段
  • 不確定な設計図書変更対応
  • 不確定な施工の監理形態および監理形態

また、「過確定な現場生産性向上手段」の帰結として、「非常に少ない創意工夫の余地」という問題が発生します。

行政の無謬性神話から契約軽視/契約不完備に至るまで

渡邊法美氏の講演資料わが国の公共工事入札・契約制度改革に関する一考察の文中には、以下のような記述があります。

薄井は、「日本において行政に対する期待、逆に言えば、行政が自己に課している行政責任には、よく引き合いに出されるアメリカとは異なるものがある。それは、およそ工事が投げ出されるとか極端な疎漏工事などは絶対にあってはならないという考え方である。事後的な損害賠償の議論などは、行政責任を重視する立場からすれば、ほとんど意味のないことなのである。工事の完成についての完璧主義と言ってよい。」と述べ、…

このような考え方のもとでは、「紛争解決手段の定義や受注側の請求権について、十分に網羅性のある契約」「契約のデザインによる仕事の進め方の形成」といったあり方は実現しようがありません。ゆえに、「契約軽視/契約不完備」という帰結に至るわけです。

NTT加入者線路設備工事の実施設計は、こんなことを考えて行われている

加入者線路の実施設計とは

下記記事に詳細を記述しています。

rapidliner0.hatenablog.com

本記事の前提条件

rapidliner0.hatenablog.com

本記事で対象とする実施設計は、NTT東西のサービス総合工事における実施設計を想定しています。例えば以下のような工事が含まれます。

  • 既存加入者線路における支障移転1
  • 既存加入者線路設備の増強、縮減
  • 中小規模集合住宅・中小規模オフィスビル・中小規模商業施設等への引込設備の新設
  • 既存の不良設備や不安全設備の更改

一方で、以下のような通信設備工事の実施設計は、本記事の記述対象とはしません。

  • NTT東西以外の通信事業者の通信設備工事
    • 移動体通信の通信設備工事も、本記事の記述対象ではない
  • 面的広がりを持った地域に対するNTT加入者線路設備の新規導入工事
    • このような工事については、NTT東西の場合、「一般計画工事」「簡易総合工事」といったスキームで発注がなされる
  • 大規模集合住宅・大規模オフィスビル・大規模商業施設等への引込設備の新設
    • このような工事については、NTT東西の場合、「一般計画工事」「簡易総合工事」といったスキームで発注がなされる
  • 自治体発注による加入者線路設備の新設
    • 「IRU工事」と言われる種類の工事である

加入者線路の実施設計で求められる要素

加入者線路の実施設計には、「複数工事への対応」「経済性を意識した設計」「安全性を意識した設計」といったテーマを総合的に反映することが求められます。

複数工事への対応

サービス総合工事には、上述「本記事の前提条件」で触れたように、多種多様な工事が含まれます。発注者たるNTT東西は、通建会社による実施設計に対し、複数工事を同時に施工することによる付加価値の提案を求めています。

経済性を意識した設計

NTT東西は、昨今「メタリック加入者線路設備の縮減」を設備構築の主要な方針としています。このような大まかな方針に基づき、NTT加入者線路設備の実施設計に対しては、以下の細かな方針が示されています。

  • 今後使用される見込みのない設備は撤去する
  • 新築建造物等でメタリック加入者線路設備の新設が必要な場合、その規模は最小限とする

NTT東西も経済活動を行う実態である以上、最小限の投資で最大限の成果を出すことが求められます。「加入者線路設備工事の実施設計」という範囲でいえば、例えば「支障移転工事で電柱の建て替えが必要となる場合、建て替え後の電柱の本数が最小となるようにする」といった具合です。

安全性を意識した設計

「人身事故リスクを最小限にする」という命題は、設計段階から考慮しなければなりません。例えば以下のような要素が含まれます。

  • 高所作業は、可能な限り高所作業車を使う
  • 交通量の多い道路、歩行者の多い歩道等の存在を考慮する

周辺で設備更改等が発生する場合、危険のある老朽設備等の更改も同時に行うことが求められます。「周辺設備の更改」そのものは工事注文書には含まれませんが、「通建会社裁量の提案」として評価されます。

法律上求められる安全要件は、当然満足されなければなりません。NTT加入者線路設備工事においては、「架空通信設備の地上高要件を満足するような電柱更改」が主なテーマとなることが多いです。

実例「アクセスデザインコンテスト2021」における設計課題

※この部分の記述については、前提となる「アクセスデザインコンテスト2021における設計課題」が、情報通信エンジニアリング協会Webサイト上で非公開となったため削除しました。


  1. 道路工事等の理由による設備移転工事です。

フレームワークやベストプラクティスと、旧来日本製造業型組織は相容れないものである

参考文献

本記事の内容は、以下の記事を参考文献としています。

note.com

フレームワークやベストプラクティスは、公的なオーソライズにそぐわない

フレームワークやベストプラクティスは、事業者が事業活動のマネジメントを進めていく上で効果的とされる手法をまとめたものです。しかしながら、これらの考え方は、公的なオーソライズにはそぐわない性格のものとなります。公的なオーソライズにそぐわない理由は以下です。

  • その手法を規定することが困難である
  • 以下の要素を規定するのが困難である
    • 何を適用して何を適用しないのか
    • どのようなリスクを許容するのか
    • どれだけのリスクを許容するのか

これら「規定することが困難な内容」について、事業者自らが解析を行い、リスクが大きくなる原因を認識して対策を取る…フレームワークやベストプラクティスの意義はそこにあります。土橋律氏が「リスク管理は自主管理向きの手法である」と述べたのと同様に、「フレームワークやベストプラクティスは自主管理向きの手法」なのです。

旧来日本製造業型組織において、フレームワークやベストプラクティスを適用しようとすると何が起こるか

土橋律氏は、日本の製造業等における安全管理の考え方について、以下のような風潮があると言及しています。

安全上の対策について、法令や基準など公的にオーソライズされたものに従うことで事業者の安全確保の責務を果たしたと考える

旧来日本製造業型組織でそのままフレームワークやベストプラクティスを適用しようとすると、どうしても「フレームワークやベストプラクティスを無理やりオーソライズして、組織は『オーソライズされたものに従う』という体裁を取る」というアプローチにならざるを得ません。

かくして、沢渡あまね氏が言及するような「フレームワークやベストプラクティスに『使われて』しまう」という帰結に至るわけです。過去の「ISO認証の取得や更新をめぐり、各所で繰り返されるドタバタ劇→ISO認証が競争参加の要件とされないセクションにおけるISO認証の返上ラッシュ」などとも似たようなものを感じますね。

フレームワークやベストプラクティスを真に意味あるものとするために

土橋律氏は、「リスクによる安全管理を導入していくために必要なもの」として以下のように記述しています。

リスクによる安全管理を導入していくためには、まずはリスクの概念に対する正しい認識を関係者が持つことが必要である。そのためには、リスクの概念の正しい情報提供が不可欠である。リスク評価の講習や解説書などが最近増えているが、手法を学ぶ前にリスクの概念と既往の安全の考え方との違いについてしっかり認識することが肝心であると考えられる。

私個人としては、上述「リスクによる安全管理」を「フレームワークやベストプラクティス」と言い換えるなら、以下の内容になるのではないかと思います。

また、土橋律氏は、「安全の自主管理の重要性に対する認識」について以下のように記述しています。

オーソライズされた法令や基準にすべて適合していても、事故が発生してしまえば事業者は責任をのがれられない。自主管理は当然必要であり、対策の優先順位や目標設定が客観的に実施できるリスクを用いた安全管理の有用性についても理解が深まるはずである。

私個人としては、上述の言及をフレームワークやベストプラクティスに適用するならば、以下の内容になるのではないかと思います。

  • オーソライズされた法令や基準にすべて適合していても、インシデントが発生してしまえば、事業者(およびその事業活動について責任を持つ者)は責任をのがれられない
  • 事業運営全般にあたっての自主管理は当然必要である
  • 「事業運営の自主管理」という考え方についての理解が深まれば、フレームワークやベストプラクティスの有用性についても理解が深まるはず

地域経済のリモート化を妨げるもの…公共工事依存の官製市場

きっかけ…地域経済のリモート化を妨げるもの

以下は、沢渡あまね氏執筆のnote記事「地方都市の中小企業こそデジタルワーク・オンラインワーク・テレワークを!」です。

note.com

この記事を読んで、個人的に「地域経済のリモート化を妨げるのは、公共工事依存の官製市場が地域経済の根幹をなしていることが大きな原因であろう」と考えました。以下解説です。

「地域経済のリモート化」と相容れない「公共工事依存の官製市場」

日本において「地方企業のリモート化」ないしは「地域経済のリモート化」を実現するためには、「地域の産業構造の転換」が必要となるケースが多いと思います。理由は以下の通りです。

  • 大都市圏以外の地域の場合、地域経済が公共工事に大きく依存しているケースが少なからず存在する
  • 「官製市場では、働く人・企業のリモート化の実現はおぼつかない」という事実を受け入れなければならない

公共工事依存の官製市場」において、主役となるのは建設業です。建設業は、その事業性質上、(少なくとも現状においては)リモート化に物理的限界があります。ゆえに、現状成立している「公共工事依存の官製市場」は、「地域経済のリモート化」とは相容れないものです。

また、リモート化が容易な業種は、事業環境の不確実性が高く、「官が事業環境・市場構造をコントロールするのは非現実的である」というのを前提としなければなりません。その意味でも、「公共工事依存の官製市場」と「地域経済のリモート化」は相容れないものです。

なぜ「公共工事依存の官製市場」が続いてきたのか…官側から

公共工事依存の官製市場」は、官側にとって政策立案・実行が大変楽ちんな市場です。理由は以下の通りです。

  • 官が事業環境・市場構造をコントロールするのが容易である
  • 事業者に対し、官が事業内容を統制することが可能である

建設業というのは、建設業法を根拠法規とする許認可事業であり、官が許認可の権限を有する事業です。また、建設業に対する官による具体的統制手段として、「経営事項審査制度」や「入札ランク制度」といったものが存在します。さらに、官は発注金額・発注タイミング等を通じ、「公共工事依存の官製市場」の市場規模や繁閑もコントロールできます。

「地域経済そのものが談合で成り立っているのではないか」という疑念

地域経済が「公共工事依存の官製市場」で成り立っている地域には、「地域経済そのものが談合で成り立っているのではないか」という疑念があります。そのような疑念を持つに至る原因としては、以下のような事柄があります。

  • 外部事業者に対する排他的な姿勢
  • 下請事業者に対する「俺らが養っている」という意識の存在
  • 内部事業者が外部に進出しようとしない姿勢

「外部事業者に対する排他的な姿勢」は、「非競争を実現するための、内部事業者同士の結託」の原因となります。談合の主な原因の一つですね。

元請事業者が下請事業者に対して「俺らが養っている」という意識で接していると、下請事業者側も「特定の元請事業者に養われている」という意識を持ってしまいがちです。また、「下請事業者を養う」という意識は、「下請事業者を養うために、安定的で確実な受注が必要である」という考え方にもつながります。「安定的で確実な受注」を実現するための手っ取り早い手段、それが「談合」というわけです。

「内部事業者が外部に進出しようとしない姿勢」は、以下のような状況が主な原因と考えられます。

  • 現状に最適化されすぎた組織構造、事業マインド
  • 事業組織全体として、市場分析・マーケティング等の能力が欠如している

「今までの市場環境がぬるま湯にすぎたため、ぬるま湯の環境でしか生きていけなくなり、外部に進出しない・したくてもできない」…という帰結ですね。

まとめ

  • 大都市圏以外の地域経済は、「公共工事依存の官製市場」に依存している場合が少なくない
  • 公共工事依存の官製市場」は、「地域経済のリモート化」とは相容れない
  • 公共工事依存の官製市場」は、官にとって維持・運営がこの上なく楽である
  • 公共工事依存の官製市場」で成り立つ地域経済には、「事業者が談合マインドで、地域経済そのものが談合によって成り立っている」という疑念が発生する

地域経済も「脱公共工事依存・脱統制・脱談合」でいきましょう!

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ガントチャートとバーチャートの違い、およびバーチャートのアンチパターン

ガントチャートとバーチャートとは

ガントチャートは、「プロジェクトを構成するタスクを上下方向に並べ、横軸に進捗率または日時を取り、左右方向に線を伸ばしていく」という図面です。進捗管理のツールとして広く用いられています。

aippearnet.com

一般的には、横軸に進捗率を取るものも日時を取るものもまとめて「ガントチャート」と称されています。一方で、建設業法上の資格の一種である「○○施工管理技術検定」においては、一般的にガントチャートと総称されるものを、さらに2つに分けています。以下その定義です。

  • ガントチャート…横軸に進捗率をとるもの
  • バーチャート…横軸に日時をとるもの

普段我々が「ガントチャート」と称するものは、施工管理技術検定的には「バーチャート」を指す場合が多いです。

なお、金融・証券業界においては、バーチャートというのは全く別の概念を指します。「バーチャート」というキーワードでWeb検索をかけると、金融・証券業界におけるバーチャートが検索結果に含まれるので注意が必要です。

www.daiwa.jp

バーチャートのアンチパターン…「逆線表」と「気合線表」

バーチャートは進捗管理のツールとして大変広く用いられています。しかしながら、「バーチャートが実効性を失う事態につながるアンチパターン」も存在します。そのようなアンチパターンの中で代表的なもの2つが、「逆線表」と「気合線表」です。

「逆線表」というのは、「先に納期を決めて(往々にして決まっていて)、納期から順にタスクを割り付けていく」という作り方がなされたバーチャートを指します。一方の「気合線表」というのは、「最初から達成不可能であることが明白な、無理な期間設定がなされたバーチャート」を指します。

気合線表の有害性

www.gixo.jp

気合線表の有害性は、以下の2つであると認識しています。

  • 進捗を測定する手段がなくなる
  • スケジュールを守ろうという意識がなくなる

前者の「進捗を測定する手段がなくなる」というのは、「全く当てにならないスケジュールのみが存在する」ゆえの帰結です。後者の「スケジュールを守ろうという意識がなくなる」というのは、「最初から達成不可能であることが明らかなスケジュールである」ゆえの帰結です。

逆線表がアンチパターンである理由

kaizenproject.jp

逆線表がアンチパターンである理由は、大きく以下の2つがあると認識しています。

  • 往々にして、「何を作るのか決まっていないのに、納期だけが先に決まっている」というパターンとセットで出現するものであるため
  • 各タスクに割り当てられた期間に、多くの場合根拠がないため

上記2つはセットで出現する場合も多いです。「何を作るか決まっていないから、どのようなタスクが必要かも見当がつかない。ゆえに、タスクそのものが適当に設定されており、そこに割り当てられた時間にも当然根拠がない」といった形ですね。

新入社員研修と安全衛生教育の違い

はじめに

私の現所属企業・現所属部署における新入社員研修は、世間一般における実態と大きくずれているのではないかと考えています。どこがずれているのか、世間一般における新入社員研修とはどういったものなのか。私個人としては、「新入社員研修と安全衛生教育の違い」が核心なのではないかと考えるに至りました。

ということで、この記事では「新入社員研修と安全衛生教育の違いとは何か」というテーマについて解説を書いてみます。

現所属企業・現所属部署における新入社員研修

私自身は、この記事執筆時点において、NTT発注の電気通信工事の請負を主な事業とする企業において、NTT発注の電気通信工事の請負を行う部署に所属しています。当該部署における新入社員研修は、「新入社員研修」と言いつつ、実態としては建設業における「送り出し教育」に近いものとなっています。

「送り出し教育」とは

建設業における「送り出し教育」とは、「雇い主が実施する、現場作業に必要な知識・技能についての新規従事者向け教育」を指します。

労働安全衛生関係法令上、建設業におけるいわゆる「新規入場者教育」については、関係請負人または特定元方事業者が行うものとされています。以下、いわゆる「新規入場者教育」の法的根拠となる労働安全衛生規則第642条の3の規定です。

建設業に属する事業を行う特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われるときは、当該場所の状況(労働者に危険を生ずるおそれのある箇所の状況を含む。以下この条において同じ。)、当該場所において行われる作業相互の関係等に関し関係請負人がその労働者であつて当該場所で新たに作業に従事することとなつたものに対して周知を図ることに資するため、当該関係請負人に対し、当該周知を図るための場所の提供、当該周知を図るために使用する資料の提供等の措置を講じなければならない。ただし、当該特定元方事業者が、自ら当該関係請負人の労働者に当該場所の状況、作業相互の関係等を周知させるときは、この限りでない。

現実には、新規入場者教育は特定元方事業者自身が行う場合が多いです。「当該現場特有の危険性について最も熟知しているのは、一般的には特定元方事業者である」というのがその理由です。

「新規入場者教育は特定元方事業者が行う」となると、「じゃあ関係請負人は、自身の労働者に対し、労働安全衛生法上の安全衛生教育義務を満足するためにどのような施策を行うべきなのか」というという問題が出てきます。建設業界内部においてその答えとされている教育、それが「送り出し教育」なのです。

現所属企業・現所属部署における新入社員研修の実態

私の現所属企業・現所属部署において、新入社員研修の主な内容は以下の通りです。

  • 就業規則・福利厚生・その他待遇についての教育
  • 社内情報システムの取り扱いについての教育
  • 労働安全衛生法上、現場作業に従事する上で必要とされる各種技能講習・特別教育
    • フルハーネス型墜落制止器具
    • 玉掛け(つり上げ荷重1トン以上)
    • 高所作業車運転(作業床高さ10メートル以上)
    • 酸欠・硫化水素危険作業主任者
  • 電気通信工事の技能労働者に必要とされる各種資格の取得についての研修
  • 電気通信工事の技能習得を示すための各種資格等の取得にあたっての研修
    • 光施工技術者育成課程
    • メタル施工技術者育成課程
    • 2級情報配線施工技能士
  • NTT設備の工事を行うために必要な技能の習得についての研修
    • 情報通信エンジニアリング協会「基礎研修線路科・統合科」

もろに現場で技能労働を行うことを前提とした研修内容です。実際、現所属部署における育成方針は、「新入社員研修終了後は、新卒入社3年目終了まで、現場で技能労働者としてNTT発注建設工事に従事し経験を積む」というのが基本的な方向性となっています。

一方で、ビジネスパーソンとして必要性が高いと考えられる以下のような内容の研修は、新入社員研修としては非常に希薄です。

  • マネジメント工学
  • 戦略的思考

結果として、本項冒頭でも書いた「新入社員研修とは言うが、実態としては送り出し教育」という一言に集約できる研修内容と言えるわけです。

他社における新入社員研修の事例

他社における新入社員研修では、一般に以下のようなカリキュラムが組まれています。

  • 業務コミュニケーション
  • ロジカルシンキング
  • 企業財務・経営指標の見方
  • プレゼンテーション
  • 業種・職種に応じた特有のスキル
    • 製造業におけるQCD
    • 店舗販売業における接客行動
    • その他様々

以上のようなカリキュラムの応用として、以下のようなユニークな内容の新入社員研修を行う事例もあります。

fledge.jp

  • 幼稚園研修(自動車ディーラー)
  • 学校での出前授業(複合機等メーカー)
  • 漫才研修(中古カー・バイク用品販売チェーン)
  • 世界一の竹とんぼを作るモノづくり講座(電子部品メーカー)
  • 35kmウォーキング(タクシー)
  • 英国研修(ブリティッシュパブチェーン)

少なくとも対外的に広く知られる新入社員研修においては、「新入社員研修とは言うが、実態としては送り出し教育」というようなケースは皆無かと思います。

改めて、新入社員研修と安全衛生教育の違い

全体としては、「新入社員研修⊃安全衛生教育」ではないかと思います。「安全衛生教育は新入社員研修を構成するが、安全衛生教育が新入社員研修の全てではない」という意味です。一方で、私の現所属企業・現所属部署においては、「新入社員研修=安全衛生教育」という認識が強いのではないかと思います。

建設業は、日々「請負」という言葉の多義性に頭を抱えながら商売をする

まえがき

建設業は、請負に立脚して成立する業種です。建設業に関係する限り、「請負」という概念は業務に常に付いて回るものです。

しかしながら、建設業に関係する各種法律において、「請負」という概念は常に一つのものを指し表しているわけではありません。適用対象に応じ、「請負」という概念が何であるかは微妙ながら異なってくるのです。

建設業に従事する者は、互いに重なりつつも微妙に異なる複数の「請負」概念の違いに頭を抱えながら常日頃仕事をしています。この記事では、建設業について回る3つの「請負」概念について説明していきます。

注意

当記事は、日本国内の法令に関する解説を含みます。内容についてはできる限り正確を期していますが、内容の正確性について当記事の執筆者が責任を持つものではありません。ご自身が実際に遭遇された事件につきましては、法律関係の専門家にご相談ください。

「請負」という言葉の意味

建設業に関係する部分において、「請負」という言葉は、大きく以下の3つの意味を持ちます。

  • 民法上の典型契約としての「請負」
  • 建設業法における「建設工事の請負契約」
  • 労働法制における「請負」

民法上の典型契約としての「請負」

以下に民法632条の条文を示します。

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法上の典型契約としての「請負」は、上述民法632条の内容がその定義となります。大雑把には、以下の2つの義務関係から成る典型契約であることを意味します。

  • 当事者の一方がある仕事を完成することを約する
  • 相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する

建設業法における「建設工事の請負契約」

以下に建設業法第2条の条文を示します。

1 この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。
2 この法律において「建設業」とは、元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう。
3 この法律において「建設業者」とは、第三条第一項の許可を受けて建設業を営む者をいう。
4 この法律において「下請契約」とは、建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者と他の建設業を営む者との間で当該建設工事の全部又は一部について締結される請負契約をいう。
5 この法律において「発注者」とは、建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者をいい、「元請負人」とは、下請契約における注文者で建設業者であるものをいい、「下請負人」とは、下請契約における請負人をいう。

以下は、「建設工事の請負契約」の建設業法における初出である同法第18条の条文です。同法第19条以降にも、特に断りなしに「建設工事の請負契約」という語句が登場します。

建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない。

第18条までの建設業法において、「建設工事の請負契約」そのものについての定義はなされていません。しかしながら、建設業法第2条の条文から、「建設工事の請負契約」は「元請、下請その他いかなる名義をもってするかを問わず、建設工事の完成を請け負う契約」であると読むことができます。

建設業法における「建設工事の請負契約」は、民法上の請負契約であるとは限りません。例えば、後述する「オペレーター付きリース契約」が建設現場に対して行われた場合、民法上は非典型契約の一種である「リース契約」に該当する一方、建設業法上は「建設工事の請負契約」に該当するとされます1

労働法制における「請負」

以下に労働安全衛生法第15条第1項2の条文を示します。

事業者で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの(当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が二以上あるため、その者が二以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。以下「元方事業者」という。)のうち、建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)を行う者(以下「特定元方事業者」という。)は、その労働者及びその請負人(元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。以下「関係請負人」という。)の労働者が当該場所において作業を行うときは、これらの労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、第三十条第一項各号の事項を統括管理させなければならない。ただし、これらの労働者の数が政令で定める数未満であるときは、この限りでない。

上記労働安全衛生法第15条第1項において、労働法制における「請負」に関係する以下の概念が定義されています。

  • 元方事業者
    • 一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの
  • 特定元方事業者
    • 元方事業者のうち、建設業その他政令で定める業種3に属する事業を行うもの
  • 関係請負人
    • 元方事業者の事業の仕事の一部を請け負っている請負人

以降、労働法制上における元方事業者と関係請負人の関係性については、「元方事業者と関係請負人」という言葉を用いて言及することとします。

労働安全衛生法においては、「請負人」の定義そのものはなされていません。個人的には、「労働安全衛生法における『請負人』の定義は、民法上の請負契約が暗黙に前提とされており、実際そうである場合が多い。民法上の請負契約でなければ、労働安全衛生法における『元方事業者と関係請負人』の関係について問題が発生する場合がある4。」と認識しています。

「請負」という言葉の多義性の露頭…オペレーター付きリース契約

「建設現場に対する、建設機械等のオペレーター付きリース契約」というのは、その契約の性質により、「『請負』という言葉の多義性に関する問題」が一気に表面化する場になります。具体的には、以下のような事態が発生するわけです。

  • オペレーター付きリース契約は、民法上の請負契約ではない
    • 非典型契約の一種であるリース契約に該当する
  • オペレーター付きリース契約は、建設業法上の「建設工事の請負契約」である
  • オペレーター付きリース契約は、労働法制上の「元方事業者と関係請負人」という関係性には該当しない

労働法制における位置づけについては、少々込み入った話になるため、以下追加で説明します。

オペレーター付きリース契約は、労働法制上の「元方事業者と関係請負人」という関係性には該当しない

労働安全衛生法第33条には、「機械等貸与者等の講ずべき措置等」として、以下の規定が設けられています。

1 機械等で、政令で定めるものを他の事業者に貸与する者で、厚生労働省令で定めるもの(以下「機械等貸与者」という。)は、当該機械等の貸与を受けた事業者の事業場における当該機械等による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
2 機械等貸与者から機械等の貸与を受けた者は、当該機械等を操作する者がその使用する労働者でないときは、当該機械等の操作による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
3 前項の機械等を操作する者は、機械等の貸与を受けた者が同項の規定により講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。

逆に言えば、以下のような帰結をも意味するわけです。

  • オペレーター付きリース契約における機械等の借り主は、労働安全衛生法第33条に定められた義務を果たせば、労働安全衛生法に定められた責任は果たしたと解される
  • オペレーター付きリース契約に対しては、労働安全衛生法上の「元方事業者と関係請負人」という関係性には該当しない

厚生労働省通達「建設業における総合的労働災害防止対策の推進について(基発第0322002号 平成19年3月22日)」の別添資料2「建設業における労働災害を防止するため事業者が講ずべき措置」においても、「リース業者等に係る措置の充実」については、以下のように記載されています。

リース業者が貸与する機械設備については、そのリース業者の責任において、当該機械設備の点検整備等の管理を行うとともに、貸与を受けた事業者においても十分なチェックを行う体制を整備すること。なお、移動式クレーン等をリースする業者であって自らの労働者がリース先の建設現場において移動式クレーン等を操作するものについては、法第33条第1項の措置とともに、事業者としてクレーン等安全規則等に定められた措置を講ずること。

オペレーター付きリース契約に関する「移動式クレーン等をリースする業者であって自らの労働者がリース先の建設現場において移動式クレーン等を操作するものについては、…事業者として」という記述は、「労働安全衛生法に定める事業者責任を負うのはリース会社である(=さらには、借り主は事業者責任を負わない)」と解釈するのが妥当と思われます。

上述の帰結について、菊一功氏5は、著書偽装請負 労働安全衛生法と建設業法の接点にて以下のように述べています。

元請等からオペレータへの作業指示をもって労働者派遣法を適用し、派遣先としての事業者責任を問うことは、罪刑法定主義に反することになる。

結語

建設業においては、その事業の根幹をなす概念である「請負」が、「同じ語句でありながら、微妙に異なった複数の定義が存在する概念」となっています。それゆえに、建設業に従事する者は、日々「請負」という言葉の多義性に頭を抱えながら商売をしているのです。このような解釈問題は、存在するより存在しないほうが望ましいです。皆さんも、特に仕事上で新たな概念を定義する際には、「概念の意味は明確で単一の定義となること」を意識する必要があるかと思います。


  1. 少なくとも、国土交通省及び公共工事発注者においては、「建設現場に対するオペレーター付きリース契約は、建設工事の請負契約である」という解釈が一般的であるようです。建設機械のオペレーター付きリース契約は建設工事に該当しますか?-兵庫県
  2. 労働安全衛生法第15条第1項は、統括安全衛生責任者の選任義務・職務について定めた条文です。
  3. 政令で定める特定事業には、2021年8月現在では造船業が該当します。
  4. CM方式による安全管理に関する研究(高木元也・小林康昭・花安繁郎・吉田圭佑)によれば、「エージェンシー型CMでは、CMRは発注者と業務委託契約(筆者補足…民法上準委任契約)を結ぶ」「CM方式が採用されたとき、CMRが直接の請負関係を持たない建設業者に対して、統括安全管理を行いうるかが不明確である」という問題があるとされます。
  5. みなとみらい労働法務事務所所長・特定社会保険労務士・元労働基準監督官