today::エンジニアに憧れる非エンジニア

今のところは、エンジニアとは言えないところの職種です。しかしエンジニア的なものの考え方に興味津津。

【まとめ・感想】DevRel/Japan Conference 2019…中津川篤司氏「なぜ日本こそDevRelを重視すべきなのか」

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DevRelとは

DevRelの定義

Developer Relationsの略です。私的には、その定義としては「主に開発者をターゲットとしたサービスの提供者が、外部の開発者に向けて行うマーケティング活動」というところであると考えています。

関係する職位

以上のような職位が、DevRelに関係する職位の一例です。開発者対開発者のコミュニケータもさることながら、顧客相手のコミュニケータ、プロダクトの方向性を決定づける経営層人材、対SNS等でプロダクトの顔となる人材、IT勉強会等の場を提供する人材、マス寄りのメディアでプロダクト中立的な記事に関わる人材…様々な種類の人材がDevRelに関係してきます。

DevRelの必要性

世界的トレンドとして

世界的に、「何かのITサービスがヒットすると、雨後の筍のように類似サービスが登場する」そのような時代になってきました。「類似サービスばかりで、それぞれが何を提供しているか、傍目には違いがわからない」という状況のもとでは、「良質なユーザーコミュニティが存在するITサービスが生き残る」という結果になる可能性は高いです。そうした「良質なユーザーコミュニティ」を作り上げるというプロセスの中で、DevRelというのは非常に重要な役割を持ってきます。

特に日本において

日本市場の特徴

英語圏の市場が「人口15億人・GDP25兆ドル」という規模である一方、日本語圏の市場は「人口1.2億人・GDP5兆ドル」という規模があります。また、米国のIT開発者コミュニティの規模が400万人前後である一方、日本のIT開発者コミュニティの規模は100万人前後です。中津川氏によれば、「日本くらいの市場規模・IT開発者コミュニティ規模があるならば、DevRelは十分に実効性のある施策となる」とのことです。

高い参入障壁の存在

英語圏、例えばシンガポールやオーストラリアの場合、米国のクラウドベンダーがほぼ障壁なしで参入することが可能です。また、これらの国は人口規模もIT開発者コミュニティの規模も米国ほど大きくはありません。社会インフラとなるようなITサービスは米国発のものがそのまま使われている、あるいは自国発のITサービスでも最初から米国市場を見据えて展開していく…というのが現状のようです。中津川氏の知見範囲においては、シンガポールにおいてローカルのITサービスは消費者向けのものしか存在しないとの話でした。

一方中国大陸には、膨大な人口に由来する膨大な市場と相応規模のIT開発者コミュニティが存在します。また、中国大陸のIPネットワークは、周知の通り、WWWから隔絶された独自のネットワークとなっています。世界市場を相手にビジネスを行う人でなければ、今や英語や日本語を話せる人も少ないそうです。結果中国大陸には、欧米のITサービスを模した多くのITサービスや、中国語を公用語とする開発エコシステムが相応規模で存在することになりました。

日本市場も、中国大陸ほどではないですが、「言語の違いによる参入障壁」「独自の慣行を持つIT市場」といったものは少なからず存在します。例えば「IT人材のITベンダーへの偏在・ユーザー企業のITリテラシー不足により、ITベンダーがイニシアティブを掌握できる余地が大きい」などといった実情です。そうした要素により、欧米のITサービスを模した日本独自のITサービスも相応規模で存在します。

日本市場が直面する弱みと脅威

一方中津川氏は、「グローバルレベルの知名度を持つ和製サービスがなかなか登場しない、それが現状である」「日本国内におけるITサービス、特に欧米クローンのサービスは、欧米勢の進出により淘汰されるリスクが少なからずある」という趣旨のこともおっしゃっていました。その理由として、中津川氏は「グローバルと日本ローカルにおける、UI/UXに対する考え方の違い」「マーケティングに対する意識の違い」といった事柄を挙げていました。実際問題として、欧米のITサービス界において相応の知名度がある日本企業は、SONYとNintendoくらいであるとか。

また、「DevRelそのものを主題としたカンファレンスの数や規模、DevRelそのものを主題としたコミュニティの規模」という点では、日本語圏のそれは英語圏に比べて明らかに小さいというのが現実であるそうです。結果、「情報量、特にテキストや動画といった媒体で共有される情報の量は、2015年時点で英語圏と日本語圏で同程度だったものが、2019年時点では明らかに英語圏のほうが多くなっている」というのが現実となっているのだそうです。

日本人の勤勉性

こちらは、「DevRelを展開していくにあたっての日本の優位性」に属するトピックです。

日本には、全国的に「直接顔を合わせて行われるIT勉強会、ないしはそれに類するアクティビティ」という文化が存在します。それを前提とした「IT勉強会を対象としたイベント運営支援プラットフォーム」が複数存在するほどです。具体的には、以下のようなサービスがあります。

ここからは、特に東京についての話です。世界的に見ても、日本の東京ほどIT開発者が一箇所に集まる勉強会が高頻度・多数開催されている場所はないのだそうです。しかも、日本の首都圏というのは、なんだかんだ言って4000万人の人口を有する世界最大の大都市圏です。さらに、ベンダー側にIT人材が偏在する業界構造もあって、「東京で石を投げればITエンジニアに当たる」と言っても過言ではないほど、東京のITエンジニアは密に存在しています。そう考えると、「開発者に直接会って、自分たちの人となりを知ってもらう」というのは、東京が世界でも最もやりやすい場所なのではないでしょうか。

開発者へのアプローチの必要性

開発者が見るのは無菌化されたWebである

Webの世界というのは、広告が氾濫する世界です。日常の長い時間をPCやスマートフォンの前で過ごすITエンジニアには、意識的・無意識的に広告を排除するスキルが確かに備わっていることでしょう。実際問題として、開発者向けの広告はクリック率が非常に悪いそうです。斯様無菌化されたWebにおいては、広告に依らないアプローチによるマーケティングが必要になる…皆さんも想像がつくかと思います。

開発者も人間である

人間というのは、「継続的アプローチが重要である」「集団母体数の多さになびく」「共通点が多いほど親近感を抱く」のが性です。

Webの世界において、「集団母体数」というのは、主に検索結果の件数を指します。同様の概念を指す語句であっても、「検索結果10件」より「検索結果100万件」のほうが、確かに訴求力がありますよね。

中津川氏によると、DevRelにおける「共通点の多さ」で重要なのは、「自分の言葉で語られていること」「開発者コミュニティで語られていること」であるそうです。「開発者コミュニティ」と呼ばれるようなコミュニティには、例えば以下のものがあります。

開発者へのアプローチ手段

DevRelの展開

DevRelを実際に展開していく手法としては、「オフラインであるか、オンラインであるか」「フローであるか、ストックであるか(中津川氏は、コミュニケーションとコンテンツとおっしゃっていました)」によって、4つの象限に分けることができます。抜けや漏れのない、マトリクス分けとしても見事な分け方ですよね。

オフライン・フロー

  • ITカンファレンス
  • 個別勉強会

直接顔を突き合わせてのコミュニケーションです。雑談等が生まれる、という意味でも必要な象限です。ただ、このようなコミュニケーション方法の場合、どうしても地理的障壁やスケジュール的障壁が生まれてきてしまいます。移動時間の発生やその使い方は、それ自体解決すべき業務課題の一つです。また、「先方の意向や都合を無視して一方的に乗り込んでいく」「時間や内容からして、どちらかが一方的に割を食うことになってしまう」というのは健全ではありません。

オンライン・フロー

SNSの類が該当します。「体系化して残すことが前提ではない、オンラインのコミュニケーション」というところでしょうか。直近のカンファレンス参加予定、直近のトレンドに乗っかった近況報告、文字ベースの雑談等の使い方が考えられます。

オフライン・ストック

  • 商業書籍
  • 技術同人誌

最もフォーマルな形でのアウトプットです。相応の準備も必要となりますし、巻き込む当事者の規模・範囲も広大になります。その分、こうした形でのアウトプットの実績は自信につながりますし、外部からの評価にもつながりますし、フローでのアプローチを円滑に進めるためのツールともなります。

オンライン・ストック

オフライン・ストックよりはカジュアルな形による、ストック形のアウトプットです。

  • フロー形のコンテンツだけで人となり、特にアウトプットの根底にある理念を伝えるのは困難がある
  • オフライン・ストック形のコンテンツは、発信に至るまでの障壁が高い

以上のような問題に解決策を与え、よりカジュアルに理念を伝える手法であろうと考えています。

「オンライン・ストック形の情報伝達媒体が出現したことにより、カジュアルにストック形コンテンツをアウトプットできるようになった」というのは、DevRelに限らず、ここ十数年の大きな変化であると思います。