today::エンジニアに憧れる非エンジニア

今のところは、エンジニアとは言えないところの職種です。しかしエンジニア的なものの考え方に興味津津。

【まとめ】夢ある未来の描き方Ⅱ - 富士通 戦略企画統括部長 中江功さん発表

SCSK診断士&MBA会主催の発表会、夢ある未来の描き方Ⅱ。その最初の発表でした。タイトルは「デジタルトランスフォーメーション時代の未来を創るWA(和)のプロジェクト・マネジメント」です。

ITがビジネスを阻害することがあってはならない

中江さんが最初に問題提起したのは、当項タイトルのテーマでした。「事業会社のビジネスが四半期区切りで進んでいるのに、SIerのビジネスは未だに年区切りである」「事業会社は、構築が終わる前に陳腐化するような技術をSIerが提案してくることに疑問を持っている」ということもおっしゃっていました。

個人的には、より区切りが長いビジネスの存在について考えていました。

  • 建設業、特に大規模な建築プロジェクトは、一年より長い期間を区切りとして進んでいる
    • 建設業においては、会計期を跨ぐようなプロジェクトが当たり前であることを主因として、会計そのものも独自のものとなっている
  • 物理的インフラが絡む場合、さらに区切りの期間は長くなる
    • 動産インフラの法定耐用年数は数年~十数年
    • 箱物インフラの法定耐用年数は数十年というのがザラにある

私自身が属する企業は、「NTTの通信インフラ構築工事を請け負う事業を主たる事業とする企業」です。そのビジネスモデルそのものに、「自分が身を置いていることで、果たして自分のキャリアのためになるのだろうか」という疑問を強く持っているところです。世の中の流速に対して、業界の流速があまりに遅すぎるのではないか。そんな疑問を持っているところです。

日本のIT業界の特殊性

日本のIT業界の特殊性について、中江さんは「日本のIT人材は、7割ほどがベンダー側に所属している」と言及していました。

IPA情報処理推進機構)によるIT人材白書 2017の79ページによりますと、2015年時点で日本の情報処理・通信に携わる人材の産業別割合は、IT企業72.0%に対してサービス業6.5%でした。一方同年時点米国の情報処理・通信に携わる人材の産業別割合は、IT企業34.6%に対してサービス業30.2%でした。金融、公務、商社・流通といた産業分野においても、情報処理・通信に携わる人材の産業別割合は、日本に比べて米国のほうが高い値を示しています。同白書79ページにおいて、IPAは以下の記述を行っています。

(米国においては)日本より幅広い産業に情報処理・通信に携わる人材が所属していることがわかる。

情報子会社問題

個人的には、以下のようなことを考えていました。

  • 情報子会社問題
  • ITベンダーの大半が首都圏に集中していることによる、地方企業が構造的に抱えるハンディキャップ

情報子会社問題 - Wikipediaに、これらの問題の概要について書かれています。

  • 事業会社にIT人材がいないことによる、企業全体としてのITリテラシーの低下
  • 情報システムの構築・運用に契約が入り込むことによる、事業施策と情報システムの分断
  • 人事体系・賃金体系の分断による、再統合の困難さ

執筆時に思いついた中でも、以上のような問題がありました。私自身は、このような問題に対して意思決定できる段階の職位におらず、投げっぱなしとならざるを得ないのが心苦しいです。

DX(Digital Transformation)×プロマネ

ビジネスモデル見直しの必要性

このテーマに関しての中江さんの発表内容は、私としては、「一括請負契約に立脚したビジネスモデルは見直しが必要である」という趣旨のことであると理解しました。

VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)を旨とする現在のビジネス環境において、「成果物を明確に定義しなければならない」という一括請負契約の特性はそぐわない。私としてはそう思います。現在のビジネス環境における成果物というのは、ビジネスを進めていく中で、ステークホルダーと共に見つけ出していくものであるのですよね。中江さんは、「アジャイルも一つの答えである」ということをおっしゃっていました。

新たな関係を構築するプロジェクト・マネジメント

  • 人を中心としたマネジメント
  • 再現性があり、未来が予測できるマネジメント
  • 理論やプロセスに支えられているマネジメント
  • 働き方を変えるマネジメント
  • ユーザーとベンダーがWin-Winになるマネジメント
  • 日本人の強みを自然に活かすマネジメント

項名記載のテーマについては、中江さんは、以上6点言及されていました。

「再現性があり、未来が予測できる」という点は、私としては、昨今の開発において言及されることが多くなった「冪等性」という概念と関係が深いと思いました。冪等性というのは、「ある操作を一度だけ行っても複数回行っても同じ結果が得られる、特にエラーや不整合の状態が変わらない」という性質のことです。テクノロジーとして適用されるのみならず、マネジメントにも冪等性。その気付きから始まる変化は、きっと何か存在すると思います。

「理論やプロセスに支えられているマネジメント」について、中江さんは、「やれることと、やれるように教えられることの間には、大きな隔たりがある。その隔たりを埋めるために理論が必要」「現在のアカデミアには、プロジェクト・マネジメントの体系だった研究が著しく貧弱である。アカデミアの皆様、ご協力をお願いいたします!」という趣旨のことをおっしゃっていました。未来のプロジェクト・マネジメントが、より理論やプロセスに支えられたものでありますように。

「ユーザーとベンダーがWin-Winになるマネジメント」について、中江さんは、「成功報酬型契約も可能な形に持っていける」という言及をしていたと記憶しています。どちらかが敗者になるようなマネジメントは、確かに、沢渡あまねさんが言及するところの「仕事ごっこ」「アンヘルシー」に該当するようなものであろうなと思います。

プロジェクト・マネジメントにつきまとう様々な問題

プロジェクトにおける心配事

  • 予算がオーバーするのではないか
  • 納期・品質を守れるか
  • プロジェクトの進捗状況がわからない

項名記載のテーマについて、中江さんは、以上3点言及されていました。

  • 期日・納期に追われて辻褄を合わせる
  • 残業でカバー

その帰結について、中江さんは、以上2点言及されていました。「残業でカバー」、嫌な響きですよね…#ssmjp 2019年06月(第2回)…Typhon666_deathさん(略称)もしハタ2で見たおどろおどろしいスライドを思い出しました。

プロジェクトが予定通り進まないのは、人間という生き物そのものの本質である

プロジェクトが予定通り進まない理由について、中江さんは、以下の概念について言及していました。

リンクはいずれもITmedia エンタープライズ 情報システム用語事典へのリンクです。

「人間という生き物そのものの本質」というのは、「自分に与えられたリソースは自分ですべて消費しようとする」「余裕時間があればあるほど、実際に作業を開始する時期を遅らせてしまう」という特性について言及したものです。

中江さんが言及していた内容は、エリヤフ・ゴールドラット氏の主張に基づくニュアンスであったと認識しています。学生症候群は、それ自体がエリヤフ・ゴールドラット氏の提唱による概念です。「作業が早く終わっても次工程に回さない」「早期完了の未報告」といった意味合いでパーキンソンの法則に言及することもまた、パーキンソンの法則 - ITmedia エンタープライズ 情報システム用語事典によれば、エリヤフ・ゴールドラット氏の著書に由来するものであるとのことです。

人間の本質以外の問題

  • リソースの制約
  • 依存関係
  • 不確実性

項名記載のテーマについて、中江さんは、以上3点言及されていました。

避けられるムダの原因

  • マルチタスク
  • 固定スケジュールの管理
  • 介入の機会を見つける難しさ
  • 予算主導によるスケジュールの割り当て

項名記載のテーマについて、中江さんは、以上4点言及されていました。「プロジェクトマネジメントの巧拙により、避けられるムダは減ることも増えることもある」とも言及されていました。「増える」というのはショッキングな話であり、避けたいものですよね…

CCPM(Critical Chain Project Management)

プロジェクトマネジメント手法の一つです。上記リンク先に、CCPMの内容についての説明が記載されています。WA(和)のプロジェクト・マネジメントの根幹となった考え方であるそうです。

CCPMの基本的な考え方

  • 各タスクの締切は、達成可能性50%くらいになるような値を設定する
  • 余裕日数は、プロジェクト全体で共有するバッファとして設定する
  • 各タスクの開始日は、できる限り遅く設定する

CCPMについての説明では、上述のような考え方が記載されていました。「個々のばらつきを個々で吸収するのは効率が悪いので、全体で吸収するようにする」「マルチタスクの発生は避ける」というのが理念となっているそうです。

プロジェクトマネジメントの運用で重要なこと

  • マネージャーが把握すべきこと
    • あと何日で終わりますか?
    • 進捗は順調ですか?
  • チーム単位で評価するから個別最適が発生する

中江さんは以上の点について言及されていました。

「あと何日で終わりますか?」という事柄については、「あと何日」ということに重点が置かれていました。私が考えるに、「進捗率ではなくて残日数で報告する。直感的でわかりやすく、進捗率より主観が入り込む余地が少なく、メンバーの誰もが意識を共有できる。」そういう帰結なんだろうと思います。一方の「進捗は順調ですか?」という事柄については、「遅延につながりそうなインシデントはないか」ということに主眼が置かれたものである、と認識しました。

CCPMの説明を読むに、個別最適思考はCCPMの効果的な適用を阻む最大の要因であろうと思います。中江さんが言及していた「チーム単位で評価するから個別最適が発生する。例えば、チーム評価により、引き抜きを拒否するインセンティブが発生する。」というのも、個別最適思考を排除するということにつながってくるのだと思います。

関連書籍

今回の発表の題材となった「大和ハウス工業の基幹システム構築」についての本です。プロジェクト現場目線から書かれた、ドキュメンタリー風のCCPM解説本…だそうです。この本の存在は、寡聞にして知りませんでした。