today::エンジニアに憧れる非エンジニア

今のところは、エンジニアとは言えないところの職種です。しかしエンジニア的なものの考え方に興味津津。

ssmonline #9 ~これからの時代の事業組織の話をしよう - 人事・HR考

概要

2021年4月28日に行われたssmonline #9の発表内容・感想のまとめです。

speakerdeck.com

旧来日本企業の人事組織と、外資系企業の人事組織の違いを考える

旧来日本型の人事組織構造考

www.michaelpage.co.jp

私個人としては、旧来日本型の人事組織は、以下のような特徴を持つと認識しています。

  • 人事部門が事業組織全体の人事権を掌握・行使する唯一の主体である
  • 解雇権以外の人事権の行使が、極めて広範に認められている

個人的には、「上述するような旧来日本型の人事組織の構造は、現在~未来には適切性を欠くのかもしれない」と考えています。その理由は以下です。

  • 特に専門職については、単一の事業組織内におけるタテ・ヨコの異動を前提とはできない
    • 旧来日本型のタテ・ヨコ異動は、個人の専門性確立を阻害する要因となる危険性が高い
  • 旧来日本型の人事体系は、一部例外(現業職採用等)を除き、専門職としてのキャリア形成が考慮されていない
  • 以下のトレンドはおそらく不可逆である
    • 各従業員のライフステージを無視するような人事権の行使がされる事業組織には、求職者が寄り付かない
    • 職業人は何らかの専門性を持たなければ生き残れない

外資系企業のHR部門はどうなのか

jinjisoshiki.hatenablog.com

外資系企業のHR部門は、以下のような特徴を持つと認識しています。

  • 人事権そのものは、現場が主体的に行使する作りになっている
  • HR部門は、現場が人事権を行使するにあたり、付随する各種サービスを提供する部門である
    • 人事権の行使に、法的・道義的な問題がないかを助言する
    • 外部サービス(転職エージェント等)の使用を取りまとめる
    • 各現場の人事施策と事業組織全体の人事施策に矛盾が生じないように調整する

上述のようなサービスには、ITILでいうところの「サービスカタログ」や「サービスデリバリ」が適用されると認識しています。

組織変革のスタート地点…人事制度の変革

事業組織の文化は、その事業組織が持つ人事制度に引きずられるものです。人事制度が体育会系の事業組織は、組織文化も体育会系になりがちです。一方で、人事制度が真に多様性を尊重する作りになっている事業組織には、多様なバックボーンを持つ人達が引き寄せられるものです。

日本には、「朱に交われば赤くなる」という格言があります。個人的には、事業組織の風土における「朱」というのは、人事制度そのものを指すのではないかと考えています。人事制度次第で、組織風土は如何様にも変わりうるのではないでしょうか。

一方で、人事制度を聖域化してしまうと、その時点で組織変革は不可能になるのではないかと考えています。「人事制度を変えずに組織変革を叫ぶ」という行動は、組織変革がポーズだけである現れである…これは断言してしまってもいいと思います。

ssmonline #9 ~これからの時代の事業組織の話をしよう - 運用組織のアンチパターン

概要

2021年4月28日に行われたssmonline #9の発表内容・感想のまとめです。

speakerdeck.com

運用組織のアンチパターンとは

波田野裕一氏は、運用組織のアンチパターンとして以下3つを挙げていました。

  • 優秀な人で支援組織を作る
  • マトリクス組織にしてしまう
  • 組織名を企業規模より盛ってしまう

優秀な人を現場から引き剥がすのは一般にアンチパターンである

私としては、「優秀な人で支援組織を作る」というのは、「優秀な人を現場から引き剥がす」という意味であると解釈しました。その上で、優秀な人を現場から引き剥がすのは一般にアンチパターンといえます。

あらゆる事業の前提として、事業リソースを直接運用するのは事業組織(現場)です。その前提を踏まえ、優秀な人を現場から引き剥がすと、以下の二重苦が発生する…というのが波田野氏の発表内容でした。

  • 現場が空洞化する
    • 優秀な人が引き抜かれてしまったため
  • 優秀な人が成果を出せなくなる
    • 事業リソースから引き剥がされてしまうため

マトリクス組織は一般にアンチパターンである

www.bizkurage.com

組織設計の大原則として、「命令統一性の原則1」があります。命令統一性の原則は、「一人の部下は、特定の一人の上司からのみ業務命令を受けるように組織を構築しなければならない」という原則です。

マトリクス組織というのは、「事業上の上司と職能上の上司を分離する」という組織設計です。「命令統一性を破綻させないようにマトリクス組織を構築・運用する」というのは、一般に極めて困難です2

企業規模不相応に重い組織名の使用は一般にアンチパターンである

「企業規模不相応に重い組織名」とは、波田野氏の発表資料によると、例えば以下のような組織名の使い方を指します。

  • 数十人~数百人規模の組織に「統括本部」という組織名を用いる
  • 数人~100人規模の組織に「本部」という組織名を用いる
  • 数十人規模の組織に「部門」という組織名を用いる
  • 数人規模の組織に「部」という組織名を用いる

企業規模不相応に重い組織名の使用は、組織のタコツボ化を助長する方向にはたらきます。波田野氏は、「違う本部だと他社くらいの感覚になる」と言及していました。名前重要。

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組織名称を軽くするだけでも…

波田野氏は、「組織名称を一段軽くするだけでも、組織の風通しがよくなる可能性はある」という言及をしていました。例えば以下のような名称変更です。

  • 統括本部→本部
  • 部→課

なお、1980年代までの日清紡には、「取締役課長」という職位が存在したそうです3。かなりラディカルに組織名称を軽くした事例といえますね。


  1. 「命令一元化の原則」とも言われます。

  2. マトリクス組織は、フレデリック・テイラーの提唱による「職能別職長制度」とも深い関係を有する組織構造といえます。職能別職長制度が定着しなかったのも、「命令統一性の破綻」が大きな理由であろうと思います。

  3. 国立国会図書館サーチ プレジデント = President 26(9) によれば、1988年9月刊行の雑誌に「日清紡から「取締役課長」が消えた理由」というタイトルの記事があったそうです。その時点までに日清紡における取締役課長という職位は消滅していたとわかります。

ssmonline #10 ~ヤマサキ春のサメまつり 2021~ - スキー場の話に、サメ料理の話に

概要

ssmjp.connpass.com

ヤマサキ春のサメまつりは、「AWS Samurai受賞経験者複数氏による、ジャンル無限定の発表会」です。2019年に開催され、2020年には惜しくも開催ならずとなったイベントが、2年越しで再び帰ってきました。

本記事では、以下の発表について言及しています。

  • 山﨑奈緒美氏「ぜんぶサメのせいだ」
  • 吉江瞬氏「サメの話(仮)」/高瀬拓海氏「SAME BURGER - 突然ですが、謎のサメ屋のCMです!!」

ヤマサキの元ネタ

「ヤマサキ春のサメまつり」のヤマサキ、それは、本企画立案者にして最初の発表者である山﨑奈緒美氏の「ヤマサキ」です。「ヤマザキ」ではありません。この部分を間違えると当人にも失礼ですし、山崎製パンの商標権等の侵害問題にもなりかなないため、この違いは重要です。

山﨑氏が所属する「生活協同組合コープさっぽろ」は、一見営利企業と変わらない事業活動を行っている事業者ですが、実際には非営利団体という枠組みに属する団体です。そのような団体にAWS Samuraiが3人在籍しているのです。…「ITを本業としない非営利団体のIT化は遅れている」とか、そんなステレオタイプは、この現実の前に見事に粉砕されるのでした。

山﨑奈緒美氏の発表内容

  • 直近の現実世界におけるサメ被害状況についての報告
  • サメ映画についての話
  • 北海道のスキー場についての話

以上の内容でした。ssmjpは、(公序良俗に反する、他人の権利を侵害する等でなければ)どのような発表内容もウェルカムなのです。

北海道のスキー場

山﨑氏本人が実際に滑ったという、以下のようなスキー場が取り上げられていました。

なお、個人的には旭川周辺の以下のスキー場の存在も知られてほしいところです。いずれも大手資本・全国資本ではなく、地元資本・第三セクター自治体による運営です。

  • カムイスキーリンクス
  • サンタプレゼントパーク マロースゲレンデ
  • キャンモアスキービレッジ
  • ぴっぷスキー場
  • 大雪山黒岳スキー場

サメ専門キッチンカー SAMEYA

吉江瞬氏の発表、次いでSAMEYA店主・高瀬拓海氏本人による事業紹介LTで取り上げられた事業です。

twitter.com

↓なぜサメ?

note.com

AWS Users Group – Japan(JAWS)→JAWS→サメ→サメ専門キッチンカー SAMEYA」という一連のつながり、事業活動と人のつながりで生まれるピタゴラスイッチはここにあったのですね。

サメ専門キッチンカー SAMEYAの事業ミッション

ssmonline #10における発表内容、及び上記各種記事の内容を見るに、サメ専門キッチンカー SAMEYAの事業ミッションは、以下のようなものであると認識しています。

  • 多種多様なサメ料理を提供し、サメのヒレ以外の部分も食材として有効に消費できる事実を広める
  • サメ個体のより多くの部分が廃棄されずに有効に消費される世の中を作り、食材ロス問題の改善に寄与する
  • サメ個体のより多くの部分に値段がつく世の中を作り、サメ漁に携わる事業者の事業拡大に寄与する

「事業活動による社会への貢献」「事業活動の波及範囲の想定」の一モデルケースとしても、参考になる事例ではないかと思います。

サメ専門キッチンカー SAMEYAの出店予定について

twitter.com

上記公式Twitter・公式Instagramにて随時発表とのことです。

ランプサム契約考

ランプサム契約とは

「事前に全ての仕様を決定し、総額のみで価格契約する」という形態の請負契約を指します。英語の「lump sum contract」をそのまま日本語化したものです。日本語では「総価請負契約」「一式請負契約」「総価一式請負契約」などと称されます。日本において単に「請負契約」と称される場合、暗黙的にランプサム契約が想定される場合が一般的です。

ランプサム契約は請負契約の一種なので、受注側は契約に定められた仕事を完成させる義務を負います。

なお、ランプサム契約以外の請負契約の形態としては、「コストプラスフィー契約(コストレインバース契約・実費精算契約)」「ターゲットコスト契約(目標コスト契約)」等があります。

ランプサム契約の問題点

「まずやってみる、小規模からやってみる」というビジネスの進め方が求められる現代にあっては、「ランプサム契約は、アジャイルな仕事の進め方とは致命的に相性が悪い」というのが大きな問題であると思います。

また、ランプサム契約は、以下の記事で言及している「受発注の関係性」が先鋭化しやすいのも大きな問題です。

rapidliner0.hatenablog.com

成果物を事前に定義しなければならない

ランプサム契約は「事前に全ての仕様を決定し、総額のみで価格契約する」という契約形態です。アジャイルな仕事の進め方は、事前に全ての仕様を決定できないゆえに採用される仕事の進め方です。この時点で致命的に相性が悪いのは明らかですね。

また、ランプサム契約を含む請負契約においては、「何をもって仕事の完成とするか」を事前に定義しなければなりません。受注側は「完成させられなければ債務不履行責任を負う」という前提があるので、どうしても「自らの責務を軽くする方向に完成の定義を持っていく」という方向性に走りがちです。「完成の定義をめぐる駆け引き」が行われると、発注者・受注者の関係は、アジャイルな仕事の進め方で重んじられる「共創・協働」からはほど遠いものとなってしまいます。

発注者から見て、プロジェクトがブラックボックス化する

ランプサム契約は「総額のみで価格契約する」という契約形態です。そのため、受注者がプロジェクトをどう進めているかは、どうしてもブラックボックスになってしまいます。「プロジェクトが発注側から見てブラックボックス化している」という状況だと、受注者は「発注者を出し抜き、自らが超過利潤を得る」という方向性に走ってしまうものです。これまた「発注者と受注者の共創・協働」からプロジェクトを遠ざける大きな要素です。

受注者がリスク回避に走らざるを得ない

ランプサム契約は、「受注者が負うリスク込みで価格契約する」という契約形態です。受注側は、リスクを回避することによって自らの儲けを増やすことができます。その結果、受注者は「あらゆる手段でリスクを回避することにより、自らが超過利潤を得る」という方向性に走ってしまいます。受注者のリスク回避手段としては、「発注者にリスクを押し付ける」というものもあります。受注者が発注者にリスクを押し付ける…当然、「発注者と受注者の共創・協働」からプロジェクトを遠ざける大きな要素の一つですね。

発注側も追加負担を回避しようとする

発注者にとってのランプサム契約の最大のメリットは、「契約締結時点で金額を決定できる」という点でしょう。合理的判断ができる発注者が、当該メリットを自ら捨てる方向に動くのは非常に考えづらいです。ゆえに、発注側も追加負担を回避しようとするのです。

まとめ

  • ランプサム契約は、「事前に全ての仕様を決定し、総額のみで価格契約する」という形態の請負契約を指す
  • ランプサム契約の場合、発注者と受注者が対立関係になりやすい
    • ランプサム契約は、「発注者と受注者の共創・協働」を阻害する要因が多く含まれる契約形態である

元請通信建設会社にとって、サービス総合工事の元請会社変更は一大事

概要

rapidliner0.hatenablog.com

NTT東西のサービス総合工事(サ総工事)を受注する元請事業者は、エリア別に見た場合、一般には長期にわたり同一の事業者となります。しかしながら、何らかの理由により特定エリアのサ総工事を受注する元請事業者が変更されることは皆無ではありません。

実際に特定エリアのサ総工事を受注する元請事業者が変更されたら、元請事業者から見て何が発生するか。この記事では、その内実について記述していきます。

元請通信建設会社におけるNTT東西発注工事の施工体制

元請通信建設会社から見た場合、NTT東西発注の通信設備工事の施工は、一般に以下のような体制で行なわれます。

  1. 元請会社は、発注者たるNTT東西から通信設備工事を受注する
  2. 元請会社は、NTT東西から受注した通信設備工事を、地域別に設立した連結子会社に下請発注する
    • 設計実務・施工管理実務も地域子会社に外注する
    • 現実には、「元請会社従業員が地域子会社に出向して設計実務・施工管理実務を担う」というケースも多い
  3. 元請会社の地域子会社は、元請会社から受注した通信設備工事を、各協力会社に再下請発注する
    • 昨今は、元請会社が各協力会社に直接下請発注するケースも増加している
    • 現場における技能労働は協力会社の従業員・一人親方等が担う
    • 元請会社およびその地域子会社が設計実務・施工管理実務の一部を協力会社に外注する場合がある

元請会社は、「施工管理の現場実務については、自らは法律等に定められた最低限の業務のみを行ない、できる限り連結子会社・協力会社に外注する」という方向性で動きます。特にサ総工事において、このような傾向は顕著に現れるものです。

サービス総合工事の元請会社が変更されたら何が起こるか

サ総工事の元請会社が変更されると以下のような事態が起こります。

  • 以前の元請会社の地域子会社が、新しい元請会社から暫定的に施工管理実務を受注する
    • 期間は「新しい元請会社の地域子会社による施工体制が確立されるまで」
    • 元請会社変更時点では、以前の元請会社の地域子会社が施工管理実務の多くを担っている
  • 新しい元請会社は、当該サ総工事エリアで事業を行なっている協力会社に対し、自身や連結子会社の工事の一部を下請け発注する
    • 「元請会社の変更を機に、新しい元請会社と親密な協力会社が工事を新規受注する」というケースも少なくない
  • 新しい元請会社の地域子会社が、当該サ総工事の施工管理実務を担うための体制を新規整備する

「施工実務を担う地域子会社が、以前の元請会社の系列会社から、新しい元請会社の系列会社に入れ替わる」という過程は一大事です。新しい元請会社の地域子会社は、「要員手配・組織整備・地域事情への習熟」等のプロセス整備を行なう必要があります。これらのプロセスを完了させ、新しい元請会社による施工体制を確立するには、一般に数年の月日が必要となります。

数年かけて施工体制を確立するだって?

「施工体制の確立に数年の月日を要する」というのも、よくよく考えると悠長な話です。そのような悠長な話が成り立つ理由としては、以下のような事柄を挙げることができます。

  • 発注者たるNTT東西と元請通信建設会社の関係が安定的である
    • 元請通信建設会社は、NTTグループ各社からの転籍を受け入れる慣習があり、経営陣~中間管理職の多くをNTTグループ各社からの転籍者が占める
    • 対象設備のユニバーサルサービス性・自然独占性等により、当該関係性は将来にわたり安定的であることが期待できる
  • 通信建設業界では、「元請会社が自身の地域子会社に施工管理実務の大半を外注する」という体制が一般的である
    • 外注体制の再構築は一大事
  • サ総工事のエリア別元請会社の変更は、10年以上に1回あるかないかである

…「そのような悠長な話が成り立つほどに業界構造が安定している」ということですね。

さん/くんシステム考

概要

以下の記事を読んでのまとめ・感想です。

diamond.jp

さん/くんシステムとは

以下の表に記載するような呼称・敬語使用の使い分けを行なう、組織内部における呼称システムです。

自分と相手の関係性 呼称
相手が自分より年上 さん付け・敬語使用
相手が自分より年下 敬語を使わない
相手が自分より年下の男性 くん付け

さん/くんシステムの実例

Y課長「Sくん、例の件だけど、こうしてみようよ」
S部長「なるほど、Yさんはそう思うわけですね。じゃあHくんはどう?」
Hさん「そうですね、私もYさんの意見に賛成です」
年下を「呼び捨て」にする会社員は、しだいに身動きが取れなくなる | 会社人生を後悔しない40代からの仕事術 | ダイヤモンド・オンライン

以上の会話例における各人の年齢・職位序列の関係性は、上述関係性・呼称の対応表から、以下の関係性であることが見えてくるわけです。

序列を決める要素 序列
職位 S部長>Y課長>Hさん
年齢 Y課長>S部長>Hさん

さん/くんシステムが広く存在する組織

以下のような組織には、さん/くんシステムが今なお広く存在するものと考えられます。

  • 「同期カルチャー」が今なお根強く存在する組織
  • 縦の序列や、指示・命令系統がはっきり存在している組織
  • いわゆる「体育会系」と形容される組織

「同期カルチャー」というのは、従業員を入社年次ごとに十把一絡げのものとして扱うカルチャーを指します。以下のような特徴を持つ組織に強く現れる風土です。

  • 人材採用を新卒一括採用に依存している
  • 離職率中途採用数ともに低水準である
  • 大量採用を行なう大企業である

「縦の序列や、指示・命令系統がはっきり存在している組織」というのは、請負契約に依拠する業種、とりわけ重層下請構造が存在する業種に多く存在します。特に建設業1は、このような特性が強いと考えることができます。

「いわゆる体育会系」というのは、「縦の序列がはっきり存在している組織」の代表的な例ですね。

さん/くんシステムの問題点

さん/くんシステムは、「年齢(または入社年次)によって、人との付き合い方を変える」というコミュニケーション手法です。そのような手法を日常的に用いていると、以下のような問題の発生は避けられません。

  • 年齢に基づく縦の序列意識が温存されてしまう
  • 「相手の年齢・職位・ジェンダーなどに応じて付き合い方を変える」という風潮が温存されてしまう

昨今、「縦の序列意識を取り払う」という目的で、社内における「役職呼び」を明確に禁止する組織が増えてきました。しかしながら、さん/くんシステムが温存されていると、「年齢に基づく縦の序列意識」は温存されてしまいます。さん/くんシステムが温存されていると、「役職呼びの禁止」のような施策を行ったとしても、その結果は不徹底なものとなる…というわけです。

「相手の年齢・職位・ジェンダーなどに応じて付き合い方を変える2」という風潮は、概要記載の記事でも言及されているように、ダイバーシティ(自分たちと異なる考え方を受け入れる)という考え方に反するものです。「相手の年齢・職位・ジェンダーなどに応じて付き合い方を変える」という風潮が温存されている組織は、若年者が寄り付かずor離れていき、長期的に衰退・消滅に至る危険性が高いです。

さん/くんシステムを乗り越えるために

さん/くんシステムを乗り越えるために、個人レベルでできることは多くあると考えています。

  • とりあえず自分だけでも、周囲の人全員を「さん」付けで呼ぶようにする
    • 概要記載の記事にも、この対応については言及されている
    • 年齢や役職は関係ない
    • 当初感じるであろう違和感は、意識して克服する必要がある
  • とりあえず自分だけでも、周囲の人全員に敬語を使うようにする
  • 「役割の違いは役割の違い」と、意識的に割り切って考える
    • 役割の違い・世代の違いを、身分の違いと捉えてはならない
  • ダイバーシティを実現できている組織では、『全員さん付け』というスタイルが一般的であること」を認識しておく
    • 概要記載の記事にも、この対応については言及されている
    • 年齢やキャリアの序列が把握しきれないほどバラバラになっている組織では、そうせざるを得ない

  1. 建設業は、請負契約に依拠する業種であるだけではなく、「付加価値創出の段階で、危険有害業務の発生が避けられない」「下請事業者の管理監督も含め、安全衛生の確保に関する義務・責任の多くを元請事業者が負う法制度が確立している」等の特徴があります。

  2. 個人的には、「相手の年齢・職位・ジェンダーなどに応じて付き合い方を変える」という問題は、「中高年向けメディアで顕著に現れる、女性を性的対象としてしか見ない風潮」にも通じる問題ではないかと考えています。

「受発注の関係性」とは

概要

昨今、ビジネスの現場において、以下のようなテーマに言及される機会が増えているように感じます。

  • 事業者間の関係性について、受発注の関係性を脱し、協働・共創の関係性を築き上げるための方法論
  • 社内で受発注の関係性が発生していることに起因する諸問題

しかしながら、「受発注の関係性」という語句の意味に関する文献は、様々なリソースに散らばっています。「受発注の関係性」に関する考え方について、個人的に1箇所にまとめて記述する必要性を感じたので、この記事を書くに至った次第です。

受発注の関係性とは

私個人としては、以下の関係性を指すと解釈しています。

発注者が受注者に対し、自らの仕事の一部を委任するという契約に基づいて成立する関係性

プリンシパル=エージェント関係

以下2つの当事者によって成立する関係性を指します。

受発注の関係性は、「発注者をプリンシパル・受注者をエージェントとしたプリンシパル=エージェント関係」という側面が強く現れがちな関係性です。

プリンシパル=エージェント関係とは何か」については、以下の記事で簡単な説明がされています。

imidas.jp

請負契約の本質

請負契約は、以下2つの義務を根底とする契約といえます。

  • 当事者の一方(受注者)が、相手方(発注者)に対し、ある仕事を完成することを約束する
  • 発注者は、当該仕事の完成に対し、受注者に反対報酬を支払うことを約束する

請負契約に立脚する関係性は、「ステレオタイプ的な受発注の関係性になりやすい関係性」でしょう。

受発注の関係性のもとでは何が発生するか

発注者は以下のような考えを持つでしょう。

  • 「受注者が完成を約束した仕事の進捗を監視すること」を自らの責務であると考える
  • 「仕事」の範囲をできる限り広く解釈しようとする

一方で、受注者は以下のような考えを持つでしょう。

  • 「発注者に対し、約束した仕事の完成を認めてもらうこと」を目的として行動する
  • 「仕事」の範囲をできる限り狭く解釈しようとする

全体としては、以下のような事態が発生する危険性が高いです。

  • 発注者と受注者
  • 発注者が優越的地位を得る
  • エージェンシー・スラックが表面化する
    • 発注者と受注者の利害対立、またはそれに伴う軋轢

受発注の関係性の問題点

発注者による優越的地位の濫用

特に日本においては、受発注の関係性は、「発注者が優越的地位を得る」という関係性になりがちです。発注者が受注者に対して優越的地位を得た場合、往々にして「発注者が受注者に対する優越的地位を濫用する」という構図が発生します。「発注者による優越的地位の濫用」は、以下の事態の発生につながります。

  • 関係性の内実が、「受注者が発注者に対し一方的に責務を負う」という内実に変質する事態
  • 発注者が契約で定められた義務すら覆そうとする事態

受注側が必要最小限の行動しか行わなくなる

プリンシパル=エージェント関係におけるエージェントとしての受注者は、プリンシパルたる発注者の利益を最大化する責務を負っている一方、経済社会の一主体として自らの利益を追求する立場にあります。受発注の関係性において、受注者が発注者の利益を最大化する責務を負う範囲は、受発注の内容を定めた契約の範囲にとどまります。このような関係性において、「受注側が契約の範囲を超えて発注者の利益を最大化しようとする」という行動は、受注者自身の利益を損ねる事態になってしまいます。結果、受注側が必要最小限の行動しか行わなくなるわけです。

「協働」「共に新たな価値を作る」という考え方の不在

「発注者は仕事の範囲をできる限り広く解釈しようと考え、受注者は仕事の範囲をできる限り狭く解釈しようと考える」という図式が成立する環境のもとでは、発注者と受注者の間には、仕事の範囲をめぐる対立関係が発生します。仕事の範囲をめぐる対立関係が存在する環境下では、仮にメンバー個人が「協働」「共に新たな価値を作る」という考えを持っていたとしても、そのような考えは仕事の範囲をめぐる対立関係に埋没してしまうものです。

責任分界点に対し、異常なほど敏感になりがちである

仕事の範囲をめぐる対立は、「責任分界点に対する異常なほどの敏感さ」にもつながってきます。具体的には、以下のような事態の発生につながります。

  • 言い出しっぺの法則…言い出した側が責任を負うことになる
  • 「何を言ったか」より「誰が言ったか」が重んじられる
  • 責任を負いたくないあまり、「リスクを認識していても言わない」という行動が正当化されがちである

相互不可侵とされる領域が発生する

日本における「受発注の関係性」は、一般に「受発注者相互間における信義則の存在」を前提とするものです。「受発注者相互間における信義則の存在」は、「発注者と受注者の双方とも、契約上の権利義務の詳細まで立ち入るべきではない」という考え方を生みます。「契約上の権利義務の詳細まで立ち入らない」という考え方が暴走すると、相互不可侵とされる領域が発生するわけです。

相互不可侵とされる領域の発生は、以下のような問題の原因となります。

  • 関係性外部から見て、契約の実態が不透明になる
  • 優越的地位の濫用等、一方的な権利義務関係の存在が覆い隠されてしまう

関係性の外側が軽視される

「発注者と受注者が、お互いに相手側の当事者しか見えていない」という関係性の中では、以下のような事柄は軽視されがちになります。

  • 関係性の外側に及ぼす影響
  • その仕事を完成させることによってもたらされる社会的便益
  • その仕事を完成させた後、継続的に発生する責任やコスト